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KIKI

モデル・女優

東京生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。在学中からモデルとして活動を開始。雑誌、TVCMなどの広告、映画・ドラマ出演をはじめ雑誌連載・写真撮影、ラジオパーソナリティなど活動は多岐にわたる。
近著に『山スタイル手帖』(講談社)、『美しい教会を旅して』(マーブルトロン)がある。

山スタイル手帖表紙 美しい教会を旅して表紙
http://kiki.vis.ne.jp/

写真が好きになったのは、自分に合うカメラと出会ってから。

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─ 美術大学で建築を専攻なさっていた当時から、日常的に写真撮影を行っていたのですか?

いえ、大学で写真を撮るといっても記録のために建築物を撮っていたので、絵心やアートっぽい感覚はまったくなくて。記録のための手段としての撮影ですね。わたしが本当に「写真って楽しいんだな」と思うようになったのは、山に行く機会が多くなってきた6年くらい前からですね。自分にぴったりのカメラPEN FT(オリンパス)と出会ってからなんです。
PENはハーフ(36枚撮りで72枚の写真が撮れる)なので、自分の見た山の風景と写真の出来上がりが、近いと感じているんです。すべてが隅々までピシッとしていない写真が撮れますね。その感覚がおもしろくて。

─ 『山スタイル手帖』にもKIKIさんが撮影した写真がたくさん掲載されています。だけど、山歩きは荷物もあるし、写真を撮るは大変じゃないですか?

『山スタイル手帖』では、わたしが写っているものと、ブツ(リュックやウェアなど)以外はわたしが撮ったものです。
プロ写真家ではないですし、「絶対に撮れてないといけない」という訳でもないですから気軽に撮影しています(笑)。撮影時は、「自分の目」で見たものを大切にしたいので、カメラのファインダーをのぞいている時間は短くて、すぐにシャッターを切ります。あまり迷わないですね。「あ、ここがおもしろい!カシャ」、「シカのお尻!カシャ」というように(笑)。山は風景もきれいですけれど、山ではプラスチックケースに入ったちらし寿司も、枯れ葉ですら美しく思えますね……。
撮ることは楽しいんだけど、そればかりに夢中にならないようにしています。必死で写真を撮って、目の前で起きていたことをあまり覚えていない……なんてことにならないように。

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初めてのひとり旅でたどり着いたノルウェイの小さな木造の教会。

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─ さて、KIKIさんの一枚の写真です。これはヨーロッパの教会ですか?

ええ。わたしが初めて自分でプリントした写真なんです。教えてもらいながらプリントした最初で最後の写真(笑)。この教会があるのはノルウェイの内陸部のウルネスという場所で、船やバスを乗り継いで行きました。ノルウェイには11世紀から造られはじめたスターヴチャーチという木造の教会建築群があります。かつては何百棟もあったのですが現在残っているものは28棟のみなんです。

初めてのひとり旅で、心細い中でたどり着いた時です。安心した気持ちで撮影したのを覚えています。自分の中ですごく大切な場所ですね。高い所から広い風景を見てみようと、少し山を登ってから教会を見下ろした風景です。下から教会だけを見るよりも、まわりの風景を含めてすべてが調和して、土地に根を下ろした感じでした。観光地っぽくなっているとはいえ、お墓もありますし、いまでもちゃんと使われている教会です。人々にとても大切にされている感じを受けましたね。

ノルウェイには高い航海術を持ったヴァイキングの歴史があります。彼らは船を造るため、木を使う技術に長けていました。海沿いだけではなく、山岳地方まで勢力を伸ばしていたので、山の中にも木の教会があるんです。教会内の天井はアーチを描き、まるで船底のような印象を受けました。窓もなく明かり取り用に丸い穴が上部にあって、それも船の窓のようでした。装飾はゴテゴテはしていないんですけれど、タイを思わせるような彫刻があしらわれていたり……。タイでないにしてもヴァイキングたちの時代、いろんな文化がこの地に来ていたんでしょうね。

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古い建物には「時間が作ったなにか」がありますね。

─ 教会建築の魅力はどんな所でしょう?

わたしは信者ではないのですが、カトリックの学校に通っていたので、教会は小さい頃から親しんでいた場所です。美大の建築科に入り、建物を見て回る中で、だんだんと古い建物に興味を持つようになりました。古い建物には「時間が作ったなにか」があると思ったんです。教会は宗教の場所なんだけど、その土地に根付いた活動が行われています。キリスト教自体も、土地によって独自の変化がある。教会を見ていくと、そこに流れていた時間が見えるんですね。

日本にもおもしろい教会建築があります。たとえば奄美大島に行くと、集落には古くから使われている教会があります。数は減っているのですが、昔は集落に1つずつ教会があったそうです。そして、集落ごとに相撲を取る土俵もあるんです。神道を象徴する土俵と、カトリックの教会とがミックスされている(笑)。 素朴な小さな教会をのぞくと、ベンチが机を囲むように丸く置かれていたりして。さっきまで話し合いがあったのかもしれません。人の痕跡がそこにあり、使われている感覚があるんです。宗教的な「重苦しさ」はそこにはなく、単純にそれ(教会)があるから人が集まるんですね。

─ 写真を撮ることは、時として暴力的になってしまうことがあります。だけどKIKIさんの写真には、とても控えめな姿勢がありますね。

そうですね。いつも「撮ってもいいのかな……?」と思いながら撮影しています。中に入らせていただいた時でも、お祈りしている人がいらしたら、シャッターを押すのをためらいます。
教会以外でもあまり人は写すことはありませんね。あ、最近ちょっと撮れるようになってきたんですよ、人が。……でもやっぱりカメラを向けるのが、恐い気持ちはあります。パッパッ! と撮ってしまう。なんでしょうね……。どうしても、盗み撮りみたいになってしまうんですけれど……(笑)。

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2011/8/1 取材・文 井上英樹/構成 MONKEYWORKS
写真 藤堂正寛/Webデザイン 高木二郎

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