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官能基の構造や反応の特徴・用途

有機アジド(1):歴史と基本的な性質

このメールマガジンでは、有機合成上重要な官能基の構造や反応の特徴、および用途などについてもご紹介していく予定です。最初のテーマは、有機アジドです。今回から数回に分けて、有機アジドについてご紹介したいと思います。

有機アジドとは?

有機アジド(Organic Azides)とは窒素原子が”直線上”に3つ並んだアジド基をもつ有機化合物の総称です(図1)。RN3という一般式で表すことができます。

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図1 有機アジド(Organic Azides)

有機アジドは1864年に初めて合成され、およそ150年の歴史をもちます。一般的な特徴は以下の2つ。

  • 共鳴構造を描くことができ、”安定”に存在
  • 「求核性」と「求電子性」の2つの性質をもつ

様々な官能基に変換可能であり、近年化学からの生物学的研究へのアプローチに大活躍している分子群です。

実際、SciFinderで「有機アジド」に関する論文数を調べてみると(図2)、軒並み関連論文が増えてきているのがわかります。

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図2 「有機アジド」に関連する論文数(SciFinder調べ)[1]

では、そんな最近注目されている有機アジドははるか昔どのように生まれ、どのように使われてきたのでしょうか。みていきましょう。

有機アジドの黎明期

1864年、ドイツの化学者ペーター・グリース(ジアゾ化合物の発見者)によってフェニルアジドが合成されました[2]。しかし、当時は構造が明らかとなっておらず、1-phenyl-1H-triazine構造だと考えられていました(図3)。現在では誤りであることはわかりますね。

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図3. フェニルアジドの合成者と当時の推定構造

その後、1890年に同じくドイツの化学者テーオドール・クルチウスによって、アシルアジドの転位反応が発見されます。生成したイソシアネートは、 水により加水分解を受け、一炭素減炭されたアミンが得られます(図4)。これが、大学の有機化学で習うクルチウス転位ですね[3]

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図4. クルチウスとクルチウス転位

つまり、有機アジドの合成と利用は19世紀が黎明期となります。その後しばらくあまり大きな動きはありませんでしたが、1950年代から60年代に書けて、多くの有機アジドが合成されています。2000年ごろから現在にかけてはアジド核酸や生体共役反応の中心分子として有機化学の枠を超えて、活躍するようになりました。では続いて、有機アジドの構造的な性質をみてみましょう。

有機アジドの構造:本当に直線か?

冒頭で、有機アジドの構造は”直線”と述べましたが、本当に3つの窒素が等間隔にまっすぐ並んでいるのでしょうか。

答えからいうと完全に真っ直ぐではなく等間隔でもありません。

メチルアジド(CH3-N3)の構造をみてみると(図5)、3つの窒素N1-N2-N3の二面角は172.5°と180°(直線)でないことがわかります。また、結合の長さも、N1-N2が1.244Åであるのに対して、N2-は1.162ÅとCに近い結合の方が少し長くなっています。

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図5 メチルアジドの構造[4]

もうひとつ、芳香族アジドをみてみましょう(図7)。アジドとニトロ基がベンゼン環のすべての位置に置換している、発狂しそうなぐらい恐ろしげな分子ですが、このX線結晶構造解析[5]をみてみても、直線でなくちょっぴり傾いていることがわかります。

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図6. 有機アジド化合物の例:X線結晶構造解析

有機アジドの物性:共鳴・スペクトル・反応性

さて、冒頭に有機アジドは”安定”な分子とも書きましたが、安定といっても「化学的に安定に存在する」ということです。次のような共鳴構造を描くことができ、”安定”に存在できます(図7)。特に芳香族アジドは芳香族との共鳴安定化もあるため”安定”です。

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図7. 共鳴構造がかける

しかしながら、実は「爆発性」という恐ろしい性質を持っています。これに関しては後ほど述べたいと思います。

赤外吸収スペクトルとUVは次のとおり。

IR = 2114 cm-1 (フェニルアジド)

UV = 287 nM, 216 nM (アルキルアジド)

反応性は比較的高く、分子内に求核性のある窒素と求電子性のある窒素をもっています。その結果、1,3-双極子反応やナイトレン等価体として働くことができます。

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図8. アジドの反応性(出典:文献[5]

さて、第一回目は有機アジドの歴史と基本的な物性をみてみました。次回は最も気になる物性である爆発性に迫ってみたいと思います。

参考文献

  1. Intrieri, D.; Zardi, P.; Caselli, A.; Gallo, E. Chem Commun 2014, 50, 11440. DOI: 10.1039/C4CC03016H
  2. (a) Grieβ, P.; Philos. Trans. R. Soc. London 1864, 13, 377 (b) Grieβ, P. Justus Liebigs Ann. Chem. 1865, 135, 131.
  3. (a) Curtius, T. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1890, 23, 3023 (b) Curtius, T. J. Prakt. Chem. 1894, 50, 275.
  4. Nguyen, M. T.; Sengupta, D.; Ha, T.-K.J. Phys. Chem. 1996, 100, 6499. DOI: 10.1021/jp953022u
  5. Chiba, S.Synlett 2011, 2012, 21. DOI: 10.1055/s-0031-1290108

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