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今日からはじめる「アンガーマネジメント」

怒りの感情と上手に付き合い、コントロールする方法を紹介します。
実践すれば仕事も人間関係もよりスムーズになるはず!

vol.5 心の許容量を大きくする
2種類の「記録」とは。

何に、どれだけ怒っているのかを客観的に分析してみる

何事によらず、課題を解決するためには、まずその原因を見極めることが大切です。アンガーマネジメントにおいても、「相手のどんな言動が自分の怒りの原因となっているのか」、そして、「それは自分にとってどれほどのインパクトがある原因なのか」を客観的に分析することが、怒りをコントロールするための出発点となります。

何に、どれだけ怒るのかというのは人それぞれです。そこで、まずは自分の「怒りの傾向」を探ることから始めてみましょう。

「自分が何に怒っているのか」は、わかっているようでいて、意外とわからないものです。数日前に部下を怒鳴ったことは覚えていても、「何で怒ったんだっけ?」と記憶があいまいになっていることが珍しくありません。

そこでおすすめしたいのが、「アンガーログ」をつけることです。

今の「イラッ」はどれくらい? 怒りを感じた出来事と強さをその場で書き留める

「アンガーログ」は、直訳すれば「怒りの記録」という意味です。記録方法はとても簡単で、怒りを感じたときに、怒った出来事、その怒りはどれだけ大きかったのかをメモ書き程度の長さで書き留めておきます。怒りの大きさは、「1、2、3…」というような数字で評価すればよいでしょう。

例えば、タクシーの運転手が道を間違えたことによって約束の時間に遅れ、運転手に対して少しイラッとしたときは、

「タクシーの運転手が道を間違えた。2」

といったように書き留めます。

記録をとるツールは何でもかまいません。メモ帳に書き込んでもよいですし、スマートフォンの日記アプリや非公開状態にしたSNSに入力するのもよいでしょう。自分にショートメッセージを送るという方法もあります。

大切なのは、怒りを感じたときに、その場でメモをとっておくことです。怒りを感じたときに記録をつけるほうに意識を向けることで、怒りを感じた相手へ衝動的に感情をぶつけてしまうことも避けられるようになります。

ただ、「なぜ怒ったのか?」「どうすれば怒らずに済んだのか?」といった原因や分析、解決策などは、その場で書き込む必要はありません。怒りを感じた出来事と、そのときの怒りの強さだけを単純に書き並べ、1週間ほど経って、気持ちが落ち着いてから改めて分析するようにします。

アンガーログのメリットと書き方

あまり時間が経っていない状況で読み返すと、怒りがぶり返して、冷静な分析ができなくなります。心の状態が不安定なときも、読み返さないほうがよいでしょう。そのときの自分の気持ちの状況を判断するのも、アンガーマネジメントにとって重要な要素です。

自分の「沸点」はどこ? 「アンガーログ」をもとに「べきログ」をつける

蓄積された「アンガーログ」を眺めると、自分はどんな言動に怒りを感じるのか、という傾向が見えてきます。その傾向を「べきログ」に整理してみましょう。

「べきログ」とは、起きたことや人の言動に対する「~べき」「~べきではない」という自分の現在の考え方を記録するものです。

先ほどの例では、タクシーの運転手に怒ったのは、「プロなのだから道ぐらい覚えておくべき」という考え方があったからだと言えます。

同じように、「会議中はメモをとるべき」「夫婦でも互いの秘密を探ろうとすべきではない」といった「~べき」「~べきではない」を書き並べ、怒りの背景にある自分の信念や価値観、考え方などを明確にするのです。アンガーマネジメントでは、これらの「~べき」「~べきではない」を、「コアビリーフ」と呼んでいます。

コアビリーフが見えてきたら、次は、それに反する言動に直面したときに、どこまで「許せるか」「許せないか」という心の許容度合いを評価します。

この連載の第1回で紹介した「思考」のコントロールと同じように、「許せる」「まあ許せる」「許せない」の3段階に分けて、それぞれのコアビリーフがどれに当てはまるかをマッピングしてみるのです。

実際に分けてみると、意外に「まあ許せる」の範囲や、「許せない」と「まあ許せる」の境界など、微妙な位置にあるコアビリーフが多いことに気付くのではないでしょうか。

もともとの出来事、言動に直面したときは、あれほど強い怒りを感じていたのに、客観的に自分の心を見つめ直すと「それほど怒ることでもなかったんだ」と気付くことが多いものです。この作業を繰り返すと心の許容量は大きくなり、衝動的な怒りは少しずつ減っていきます。2種類のログをつけて自分の怒りを客観視することで、「怒りやすい体質」が改善されていくのです。

「怒り」をコントロールするためのコツ

怒りの記録の中から
どこまでなら「許せる」かを探り、
心の許容量を大きくする

PROFILE

安藤 俊介
安藤 俊介あんどう・しゅんすけ
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事、アンガーマネジメントコンサルタント。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」をアメリカから導入した日本の第一人者。教育現場から企業まで幅広く講演、研修、セミナーなどを行っている。主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『あなたのまわりの怒っている人図鑑』(飛鳥新社)、他多数。書籍は中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムなどでも翻訳され、累計発行部数は58万部を超える。

記事公開:2021年6月