職場の雰囲気を良くすることが管理職の役目とはいえ、個人ができることに限界を感じることもあるでしょう。職場の雰囲気が悪いのは、職場内に不平不満や不安がまん延しているから。自分がどんなに明るく振る舞っても、特に強い不満を抱いている人がいると、雰囲気を変えるのが難しいことも。そうした不満を持つ人に対しても、コーチングの技術を使って働きかけることが有効です。
例えば、最近残業が多くよくため息をついている部下がいたら、一対一の環境で「いつも遅くまでありがとう。だいぶんストレスが溜まってるんじゃないかな?」と声をかけてみます。「たいしたことないですよ」と返ってきても、「と言いながらため息ついてるねー。大丈夫?」という風にフィードバックし、部下の味方であることを示せば、部下は心を開いて自分の不満を教えてくれるでしょう。
「え? ため息ついてました? うーん……そりゃそうですよ。課長は可能性を見ようと言われますが、ご存じの通り、コロナ禍でうちの業界はこの有様……具体性のない能天気な発言をされても困ってしまいます」こんな風に自分の意見に反する不満が出てきても、否定は禁物。「そうかぁ。そんな不満を抱えながらも、口にしないで頑張ってくれてたんだね」と承認しながら不満の詳細を引き出し、「〇〇さんは今後どうしたいかな?」と聞いてみましょう。
そして、「みんな根を詰めて頑張りすぎなんですよー。これでは出てくるアイデアも出てきません。たまには息抜きする時間をつくってはいかがでしょうか?」こんな答えが返ってきたら、しめたもの。「週に1日半休をつくるとか、いろいろできることはあるだろうけど、〇〇さんはどうしたい?」と聞き、具体的な不満の解消方法を提示してもらえばいいのです。
ただ不満を言っているだけでは、何も改善しないどころか、周囲とのコミュニケーションに悪影響が及び状況が悪化していってしまいます。会社や職場の問題点を追及させておくばかりではなく、強みや可能性、できることに着目し、行動するように促すのがポイントです。
組織改革の手法の一つに、「AI(Appreciative Inquiry)」という理論があります。このAIでも、欠点補正ではなく、可能性の発見や長所進展をベースにしており、米国企業を中心として多数の組織に大きな変化をもたらしています。部下や後輩一人ひとりに、悪いところを見るのではなく、良いところや可能性に注目するという考え方を浸透させるのは、職場をポジティブな方向に変えるのに有効だということが実証されているのです。