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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.10 職場の雰囲気が悪いときこそ
コーチングのスキルを生かす絶好のチャンス!

職場の重苦しい雰囲気を変えるのも
管理職の大きな責務

会社や所属部署の業績が伸びず、職場の雰囲気が重苦しい……。会社員生活が長ければ、そうした経験をしたことがある人も少なくないはずです。部下や後輩の中には、殺伐とした環境に萎縮してしまい、能力を十分に発揮できない人がいるかもしれません。

一昔前なら、ハッパをかけるつもりで怒鳴り散らすような管理職もいましたが、今の時代では真っ先にパワハラと言われてしまう行為でしょう。ただでさえ人材が流動的になっている現代では、部下がクモの子を散らすように退職してしまう恐れも……。

たとえ会社を取り巻く状況が良くなかったとしても、できるだけ職場の雰囲気を明るくして部下が働きやすい環境をつくる。それも現代の管理職に求められるリーダーシップの一つです。むしろ、状況の厳しさを部下や後輩よりも分かっているからこそ、管理職はそれを改善するためにあらゆる手を尽くす必要があります。

コーチングのスキルや心構えは、このようなリーダーシップを発揮したいときにも有効です。そこで今回は、職場の雰囲気を変えるためのコーチングのテクニックを紹介します。

コーチングの技術に基づいてまず自分自身が動く

職場の雰囲気を良くするためにまず実践したいのが、自らが明るく振る舞い、周囲に積極的に声をかけることです。空気が重いときは、誰でも口を開くことを躊躇します。そして、悪いことに意識が向きがちになり、ますます雰囲気が悪くなるという悪循環に陥ります。

その流れを断ち切るために、「最近頑張ってるね!」「手伝ってくれて助かったよ。ありがとう!」といった承認や感謝の言葉を、積極的にかけるようにしましょう。また、直接伝えるだけでなく、本人がいない所で「○○君は仕事が速くて助かるんだ」などと職場のメンバーを褒めて、それが第三者から間接的に伝わるようにするといった手も効果的です。

ないものではなく今あるものに目を向け、そこに可能性を見いだすことは、コーチングの基本的な考え方です。雰囲気が悪いときほど、何事に関しても批判的な発言を控え、できるだけ良いところを探し出して、前向きな話をするように心がけてください。その積み重ねが、周囲の人を少しずつ明るくしていくのです。

一人ひとりが考え方を変えて動くように促す

職場の雰囲気を良くすることが管理職の役目とはいえ、個人ができることに限界を感じることもあるでしょう。職場の雰囲気が悪いのは、職場内に不平不満や不安がまん延しているから。自分がどんなに明るく振る舞っても、特に強い不満を抱いている人がいると、雰囲気を変えるのが難しいことも。そうした不満を持つ人に対しても、コーチングの技術を使って働きかけることが有効です。

例えば、最近残業が多くよくため息をついている部下がいたら、一対一の環境で「いつも遅くまでありがとう。だいぶんストレスが溜まってるんじゃないかな?」と声をかけてみます。「たいしたことないですよ」と返ってきても、「と言いながらため息ついてるねー。大丈夫?」という風にフィードバックし、部下の味方であることを示せば、部下は心を開いて自分の不満を教えてくれるでしょう。

「え? ため息ついてました? うーん……そりゃそうですよ。課長は可能性を見ようと言われますが、ご存じの通り、コロナ禍でうちの業界はこの有様……具体性のない能天気な発言をされても困ってしまいます」こんな風に自分の意見に反する不満が出てきても、否定は禁物。「そうかぁ。そんな不満を抱えながらも、口にしないで頑張ってくれてたんだね」と承認しながら不満の詳細を引き出し、「〇〇さんは今後どうしたいかな?」と聞いてみましょう。

そして、「みんな根を詰めて頑張りすぎなんですよー。これでは出てくるアイデアも出てきません。たまには息抜きする時間をつくってはいかがでしょうか?」こんな答えが返ってきたら、しめたもの。「週に1日半休をつくるとか、いろいろできることはあるだろうけど、〇〇さんはどうしたい?」と聞き、具体的な不満の解消方法を提示してもらえばいいのです。

ただ不満を言っているだけでは、何も改善しないどころか、周囲とのコミュニケーションに悪影響が及び状況が悪化していってしまいます。会社や職場の問題点を追及させておくばかりではなく、強みや可能性、できることに着目し、行動するように促すのがポイントです。

組織改革の手法の一つに、「AI(Appreciative Inquiry)」という理論があります。このAIでも、欠点補正ではなく、可能性の発見や長所進展をベースにしており、米国企業を中心として多数の組織に大きな変化をもたらしています。部下や後輩一人ひとりに、悪いところを見るのではなく、良いところや可能性に注目するという考え方を浸透させるのは、職場をポジティブな方向に変えるのに有効だということが実証されているのです。

インフルエンサーの協力を得てより効率的に

このように一人で動き、細やかな対応をしていくには、短くない時間と精神的なリソースが必要です。そこで、上記の方法と併用したい、職場の雰囲気を一気に変えられるかもしれない方法を紹介します。それは、社内で影響力が強い人を巻き込むこと。自分より立場が上の人や、普段から職場の人間関係の中心にいるようなムードメーカーにインフルエンサーになってもらうのです。

インフルエンサーに働きかけて職場の雰囲気を変える

まず、ムードメーカーになっている人に「最近職場の空気があんまり良くないのが気になっていて……」と素直に相談してみましょう。「〇〇さんはいつも職場の皆とよくコミュニケーションをとっているから」などと承認したうえで「ポジティブな声がけをしたり、皆を積極的に褒めたりして、一緒に職場の雰囲気を変えていってほしいんです」といった風にお願いをしてみるのがおすすめです。これがうまくいけば、一人で動くよりもはるかに早く、より確実に職場の雰囲気を変えることができます。

もちろん、それまであまり接点がない人にいきなり話を持ちかけても、協力を得ることは難しいでしょう。職場の雰囲気づくりのみにかかわらず、社内で影響力が強い人とは、日頃から意識的に交流しておくと、さまざまな場面で力になってくれるはずです。

Vol.1 で紹介した「傾聴」や「質問」「承認」「フィードバック」というコーチングの4つの代表的なスキルは、味方を増やし、人脈を広げることにも活用できます。なぜならこれら4つのスキルをしっかり身に着けていると“自分主体の会話”ではなく“相手を主役にした会話”ができるようになり、相手からの信頼を得ることができるからです。職場の雰囲気が悪いときこそ、身に着けてきたコーチングのスキルが役立ち、またそのスキルによって築いてきた人脈を存分に活かせる絶好の機会と言えるでしょう。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。思いこみクリアリングカウンセラー。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、その後コーチングに出会い、2004年よりプロコーチ・セミナー講師としての活動開始。現在はブリーフセラピー、交流分析、再決断療法などをベースに構築した独自プログラムを用い「思いこみクリアリングカウンセラー」として活動。経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティングなどを行う。著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2020年10月