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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.3 褒めベタ上司は部下をつぶす!?
効果的な褒め方、叱り方とは?

“つけ上がる”のは褒め方、叱り方を間違えているから

人は、誰でも褒められれば喜び、叱られれば悲しむもの。一昔前の「仕事はしっかり結果を出して当然」という風潮のなかで働いてきた世代は、成果を上げてもまず褒められることはなく、失敗すれば厳しく叱責されたものでした。しかし、キャリア形成の流れが変わってきた昨今では、パワハラや離職率の上昇が会社内で問題になることも多く、これまでの感覚はなかなか通用しません。特に最近の若者は承認欲求が強いとも指摘されており、「褒める」という行為の必要性はなおさら高まっているといえるでしょう。一方、部下や後輩に改善すべき点があると判断した場合は叱らなければいけないときもありますが、その場合にはいくつか注意すべき点があります。

「つけ上がると困るから、部下や後輩を褒めない」という人もいるかもしれません。しかし、褒めるべき点をきちんと褒め、叱るべきときに適切な叱り方ができていれば、つけ上がるようなことはないはず。もし褒めることで部下や後輩の仕事の質が落ちたり、業務態度が悪化したりすることがあれば、それは上司や先輩の褒め方や叱り方に問題があるのです。そこで今回は、コーチングの手法を生かした部下や後輩の上手な褒め方と叱り方を紹介します。

承認の効果を高める4本柱

第1回でご紹介した通り、コーチングでは、“承認”を重視しています。この承認は、単純に相手を褒めるということだけでなく、相手を力づけるプラスの声掛け全般を意味します。人から人に対する心理的・身体的なプラスの働きかけを心理学用語で「ストローク」といいます。例えば「よくやった」などと声を掛けることは、“プラスのストローク”に相当します。人は、周囲の人からプラスのストロークをもらうと自分の存在が歓迎されていると感じ、自己重要感や自己肯定感を培うことができます。承認もプラスのストロークの一つ。日頃から承認する習慣を身に付けることで、部下や後輩を力づける会話ができるようになります。

普段から実践しやすい承認の方法には、主に次の4つが挙げられます。

まず「事実を伝える」ことです。「今月は、先月より3件多く受注できたんだね」というように、実際に部下や後輩が残した成果を<客観的事実>として伝えます。シンプルでも口に出して伝えることで、相手は「ちゃんと見てくれているんだ」と実感することができます。

次が「I(アイ)メッセージで伝える」こと。「この案件で、君にすごく積極性を感じたよ」など、主語を「I(私)」にして伝えます。「君は積極的に仕事をするね」などと言うと、自分は消極的だと思っている人は違和感を覚えるかもしれません。しかし、自分の感想として述べることで、相手は抵抗なく受け入れることができるのです。

3つめは「質問で承認する」方法です。「こんな難しい課題をどうやって解決したの?」などと、驚きや尊敬の気持ちを質問で表現します。単なるプラス評価だと、自己評価とのギャップを感じて「いやいや自分なんて……」と謙遜したり、「おだてて自分をコントロールしようとしているのでは」といぶかったりして受け入れない人でも、これなら素直に受け止めることができます。また、質問に答えるなかで成果を上げたプロセスを振り返り、効果的だったポイントの再確認もできて一石二鳥です。

最後は、「一緒に喜ぶ」ことです。「おめでとう!」「良かったね!」など、表情やアクション、声に気持ちを込めて伝えてください。それによって部下や後輩に「この人は自分の味方だ」と感じさせることができます。

これらの4つを状況に応じて使い分ければ、承認の効果はより大きくなるでしょう。

受け入れられやすい承認の4つの方法

叱るときはIメッセージとサンドイッチ話法で

一方、部下や後輩を叱るときに、相手が受け止めやすくなる方法は、2つあります。1つは、承認と同様に、「Iメッセージで伝える」方法です。もし部下が作ったプレゼン資料の出来が良くなかった場合、「私には手を抜いているように感じられたな」と言うのが、叱るときのIメッセージ。加えて「君ならもっと良いものが作れると思う」と言えば、同時に相手は承認されたと感じることでしょう。

もう1つが、「サンドイッチ話法」です。褒める→叱る→褒めるという順で話をして、叱る部分をプラスの会話で挟みます。例えば、まず「忙しいなか、いつも頑張ってくれてありがとう」などと相手の努力を評価するところから始め、それに続いて前述のようにIメッセージで改善点を伝えます。そして最後は「今後もうちの部署を引っぱってほしい」というように期待などを伝えて、話を終えます。

また、この2つに加え、日頃から部下や後輩を承認して、しっかりと信頼関係を築いておくことが何より大切です。部下や後輩は、自分に期待してくれていると感じる上司や先輩の声であれば、愛のムチとして素直に受け入れることができるでしょう。

単なるご機嫌取りの褒めと感情的な叱りつけだけではNG

褒めるときに注意したいのが、ただのご機嫌取りにならないようにすることです。そのためには、常にしっかりと相手に向き合うことが大切。部下や後輩の仕事の成果や強みなどに日頃から目を配り、承認をする必要があります。相手をよく見ずただ褒めそやしていると、ただのご機嫌取りになってしまい逆効果です。「褒めたら相手がつけ上がった」というのは、実はご機嫌取りになってしまっていた可能性があります。

一方、叱るときに気をつけなければいけないのは、感情に任せて単に怒るだけになってしまうことです。「叱る」とは、相手のことを考えた上での改善依頼です。もちろん、時には本気で怒りをぶつけることで、相手が真剣になるときもあるでしょう。ただしこのとき、人格攻撃はタブー。何を改善すべきなのか必ず伝えなければいけません。いつも感情的に怒って攻撃するだけでは、相手が萎縮してしまうか、見限って言うことを聞かなくなってしまう恐れがあります。ぜひコーチングに基づいた褒め方や叱り方を身に付け、部下や後輩の能力とやる気を十分に引き出してください。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。思いこみクリアリングカウンセラー。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、その後コーチングに出会い、2004年よりプロコーチ・セミナー講師としての活動開始。現在はブリーフセラピー、交流分析、再決断療法などをベースに構築した独自プログラムを用い「思いこみクリアリングカウンセラー」として活動。経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティングなどを行う。著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2019年11月