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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.5 部下の言葉に隠れた心理を捉える!
観察力を磨く秘訣とは。

部下の言葉をうのみにしない

「先月始まったプロジェクト、うまく進んでる?」と部下に仕事の進捗を尋ねてみると、「え、えぇ、まぁ順調です……」という返事。順調という言葉とは裏腹に、口調も表情もいまひとつさえない。でも本人が良いと言うなら、と思って放っておいたら実は問題が深刻化していた……。そんな経験をしたことはありませんか? このような分かりやすい例でなくても、口に出すことと思っていることが異なっている場合が誰しもよくあると思います。言葉を額面通りに受け取ったり、違和感を覚えても「本人がそう言うなら、まぁいいか」などと放っておいたりすると、後で取り返しのつかない事態にもなりかねません。

上司として「私は確認したが、部下が大丈夫と言ったから何もしなかった」という弁解は、まず通用しないはずです。部下の言葉に隠れた心理をとらえ、的確にフォローすることも、管理職に求められているのです。そこで必要になるのが、コーチングの4大スキルの中の「フィードバック」。これを身に付けていれば、仕事の成果が上がることはもちろん、「この上司は私のことを分かってくれている!」と部下からの信頼を得ることもできます。そして効果の高いフィードバックをするために重要なのは、観察力にほかなりません。そこで今回は、部下の本音をとらえるために必要な、観察力とフィードバックのポイントを紹介します。

部下を観察するときに意識したい3つのポイント

部下の本心を把握するためには、部下が発している非言語情報(言葉以外の情報)をキャッチする必要があります。部下の言葉と態度の違いは、前述の例のように分かりやすいものばかりではありません。人は言いにくいことほど、隠そうとするもの。それを敏感に察知できるかどうかが、部下の本音をとらえるための第一歩と言えます。そのためには、日頃から部下を意識的に観察することが大切です。「そんなことは当たり前だ」「当然できている」と思っていても、日々仕事に忙殺されていると、周囲の人々のことをきちんと観察できていない可能性があります。観察の際に意識したいポイントは、次の3つです。

第一に、服装や持ち物です。例えばポケットの多いかばんを使っている人は、機能性・効率性重視。鮮やかな色を配した服装を好む人は、注目を集めたり、影響力を発揮したりということが好きなタイプ。そのように身に着けるものはその人の性格やこだわりを推察し、思考を読み取るヒントになります。もちろん、こうした情報だけで人の性格を断定することはできませんが、やはりその人の生き方や考え方が外見に反映されることが多いのも事実です。あなた自身の持っている「職場で着る物、ビジネスパーソンの持ち物はこうあるべき」という価値観や考えは一度忘れて、フラットに人を見てみましょう。

第二に、外見だけでなく、動作や姿勢、表情、声のトーンなどにも、人の内面的な状態は表れます。誰でも楽しいときは晴れやかな表情になり、気持ちが沈んでいると声のトーンが下がり、動作は緩慢になりがち。こうした変化こそ、日常的に部下をよく観察していなければ気が付きません。

第三に、その人がよく使う言葉には、大事にしている価値観が表れます。例えば「あの人、きちんとしていますよねー」といった表現を好む人は、自分自身も日頃“きちんとしよう”と心掛けているものです。これも人の話を聞き流しているとなかなか気が付きませんが、頻繁に使っている言葉がないか意識しているだけで、大きな違いが生まれてきます。自分との会話だけでなく、他の人との会話にも耳を傾けてみると、新しい発見があるかもしれません。

部下を観察するときの3つのポイント

部下の本心を引き出すために重要なフィードバック

コーチングにおけるフィードバックとは、相手から伝わってきたこと、相手と接していて感じたことをそのまま相手に伝えること。例えば観察によって気が付いた言葉と態度のギャップを相手にフィードバックすることで、本心を引き出すことができます。冒頭の例の場合、部下がさえない表情と口調で「順調です」と答えたときに、「順調と言っている割には、声が沈んでいる感じがするけど?」とフィードバックしてみましょう。本当は順調でなかったのであれば、部下は「この上司に隠し事はできない」と感じて、現状を正直に話してくれるかもしれません。

言葉と態度にギャップがある場合、本人が意図的に本心を隠そうとしているときだけでなく、自分自身の本当の心情に気が付いていない場合もあります。そのときも、フィードバックによって、部下自身すら意識していなかった懸念点や引っかかり、さらには部下にとっての仕事の楽しみやこだわりなども顕在化させることができるでしょう。フィードバックは、部下の本心を引き出すだけでなく、部下が自分の内面と向き合うきっかけになる可能性もあるのです。

観察はニュートラルな気持ちで、フィードバックは率直に

部下の監督や指導をする際、観察力を磨くと同時に、フィードバックする習慣を身に付けましょう。部下が話す内容と態度にギャップがあると思ったら、第3回で取り上げたように、「私はこう感じた」など自分を主語にして語る「I(アイ)メッセージ」を使い、素直にそれを伝えてください。また、普段の様子と明らかに違うと感じたときは「調子はどう?」などと声をかけてみても良いでしょう。

上司と部下といえども、人間同士である以上、相性はあります。しかし、たとえ相性が悪かったり、なかなか好感が持てなかったりする相手だったとしても、そういった思いを横に置いてニュートラルな気持ちで部下を観察してみると、今まで気が付かなかったことが見えてくるかもしれません。そして、ちょっとしたフィードバックが、部下の心を開かせるきっかけになることもあるでしょう。その積み重ねが、信頼関係の構築につながっていくのです。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。思いこみクリアリングカウンセラー。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、その後コーチングに出会い、2004年よりプロコーチ・セミナー講師としての活動開始。現在はブリーフセラピー、交流分析、再決断療法などをベースに構築した独自プログラムを用い「思いこみクリアリングカウンセラー」として活動。経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティングなどを行う。著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2020年2月