承認を繰り返して顧客から信頼されるようになったら、いよいよ顧客の真のニーズを引き出していきます。そこで使うのが、コーチングの「質問」のスキル。前述したように、重要な課題や明確になっていないことなどに関しては、なかなか答えてくれないこともあります。そこで角度を変えながらさまざまな質問をして顧客のニーズを探っていきましょう。ニーズを探る過程で、顧客本人に課題解決の方法を決断してもらうのがポイントです。
例えば、社外の人間には話しにくそうな重大な課題であれば、それに連なる比較的話しやすい小さな課題について投げかけてみるといいでしょう。経理についてであれば「前職で公私混同してしまうタイプの人間がいまして、うっかりなのか意図的なのか、プライベートで移動した際の電車賃を経費として申請していて……あわや支払ってしまうところでした。御社のように管理がしっかりしているとそのようなことはきっとないでしょうね」という風にちょっとした自分の経験を話してみるのです。
もしもその取引先に横領などの問題があったとしたら、それをきっかけに相手があなたに心を開いて、「実は恥ずかしながら……」と告白し、経理システムの見直しをしたいという話になるかもしれません。このように小さな問題について自分の過去の経験を提示することで、相手も話しやすくなり重大な課題を話してもらえる可能性が高くなります。
あなたが経理システムの専門家であれば、相手の話を聴くことでどこに問題があるのかすぐに分かるかもしれません。もちろん改善策をダイレクトに指摘することも先方が行動してくれるのであればいいですが、他人から指摘されたり指示されたりしたことを素直に行動に移せる方はそう多くはありません。そこで大切なのが、相手に語らせることなのです。
そのようなときは「横領があったのですね。御社でそのようなことがあるなんて意外です。いったいどこに問題があったのでしょうねー?」と投げかけてみるのです。すると「実は10年前に導入した経理ソフトを使っていて、不便を感じていながらもそのままにしていたんですよ。それが不正を助長させていたのだと思います。コストを節約するつもりが、かえって大きな損失を生んでしまいました」と話してくれるかもしれません。あなたがもし経理ソフトを扱っているのであれば、クロージングも大幅にやりやすくなると思いませんか?
人は、他人から言われることよりも、自分の口から出た言葉に最も影響を受けるものです。顧客を説得するのではなく、顧客自身が話した言葉に対して提案し、あくまで自分で決断してもらうのです。その方が顧客の中に、満足感や「自分ごとである」という意識が芽生え、販売後の関係性にも良い影響を与えることになります。