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わかる!コンプライアンス

最近よく話題になるものの、意外と意識しづらいコンプライアンス。
基礎知識、違反を防ぐ方法などを解説します。

vol.12

口約束での発注、急な減額やキャンセル……
その発注、下請法違反かも?

うーん、うちの部署、今期は売り上げが厳しいなぁ
そうなんだ。色々厳しい時期だよね
そうなんだよ……。うーん、いつもの業者さんに委託している業務の支払い時期を遅らせてもらうしかないかなぁ〜
えっ待って、それ下請法違反なんじゃない?

ついつい忘れがち?
下請事業者を守る法律「下請法」とは

下請法とは、業務を委託する親事業者と下請事業者との間の取引を公正にし、下請事業者の利益を保護することを目的とした法律です。一般的に仕事を発注する親事業者は優位な立場にあるため、代金支払いの遅れや代金価格の引き下げなどで下請事業者が不当な扱いを受けることがあります。そこで下請取引を公正なものにし、下請事業者の利益を保護するために制定されたのが下請法(下請代金支払遅延等防止法)です。

下請法が制定されたのは、1956年6月1日。高度経済成長期にさしかかった日本で、多くの企業が目覚ましく発展していた時期でした。好景気の陰で、強い立場にある企業から不当な扱いを受ける下請事業者を守るために、下請法が生まれました。

この下請法は、第10回で取り上げた独占禁止法を補完する法律のひとつです。独占禁止法では、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できる社会の実現を目的としています。業務を委託するという行為においても、公正で自由な競争がなければ日本の産業の発展はないという考え方が基になっています。

下請法がカバーする取引は幅広い!
親事業者と下請事業者の定義とは?

では下請法について、詳しくみていきましょう。下請法の規制対象となる取引は下記のとおり。私たちの社会に存在する、幅広い仕事をカバーしています。

(1) 製造委託
物品の製造や加工などを委託
例:自動車メーカーが部品の製造をメーカーに委託 など
(2) 修理委託
物品の修理を委託
例:自動車販売業者が自動車の修理を専門業者に委託 など
(3) 情報成果物作成委託
ソフトウエア、映像コンテンツ、各種デザインなどの作成を委託
例:ソフトウエアメーカーがソフトの開発を外部メーカーに委託、広告会社がCMの制作を外部の制作会社に委託 など
(4) 役務提供委託
運送やビルメンテナンスなどを委託
例:ビルメンテナンス業者がビルの警備を警備会社に委託 など

このように、下請法の規制対象となる取引は多岐にわたりますが、建設工事についてはこの中には含まれません。建設業法で下請事業者が同様に保護されています。

次に、親事業者と下請事業者の関係をみてみましょう。下請法の対象となる親事業者と下請事業者は、以下のように定義されています。

上記の(1)、(2)、(4)の委託において
親事業者:資本金3億円超、下請事業者:資本金3億円以下(個人を含む)
親事業者:資本金1,000万円超3億円以下、下請事業者:資本金1,000万円以下(個人を含む)

上記の(3)において
親事業者:資本金5,000万円超、下請事業者:資本金5,000万円以下(個人を含む)
親事業者:資本金1,000万円超5,000万円以下、下請事業者:資本金1,000万円以下(個人を含む)

業務を委託した際、資本金の額によって親事業者と下請事業者という立場が定義されます。

親事業者の「4つの義務」と「11の禁止事項」、
そして下請法違反の結果とは?

業務を発注する際、親事業者にはどんなことが求められるのでしょうか。順守すべきことと禁止事項について、詳しくみていきましょう。

<親事業者の4つの義務>

(1) 発注時に発注書面を交付する
(2) 取引記録の書類を作成・保存する
(3) 発注時に支払い期日を定める
(4) 支払いが遅れたら、遅延利息を払う

<親事業者に禁止されている11の事項>

(1) 受領拒否
下請事業者に責任がないのに、発注した物品などの受け取りを拒否すること。発注の取り消しや、納期の延期により納品物を受け取らないケースも含む。

(2) 下請代金の支払い遅延
物品等を受領した日(役務提供委託の場合は、役務が提供された日)から起算し、60日以内かつ定められた支払い期日までに下請代金を全額支払わないこと。受領した物品の検査や検収に時間がかかる場合でも同様。

(3) 下請代金の減額
下請事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額すること。原材料価格の下落など、名目にかかわらずあらゆる減額行為を禁止。

(4) 返品
下請事業者に責任がないのに、発注した物品を受領後に返品すること。不良品は受領後6カ月以内に限り返品が可能。

(5) 買いたたき
通常支払われる対価に対し、著しく低い下請代金を不当に定めること。下請代金は下請事業者と事前に協議の上、決定する。

(6) 購入・利用強制
正当な理由なく親事業者が指定する製品や原材料、保険やリースなどを強制して購入、利用させること。

(7) 報復措置
親事業者の違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に報告したことを理由に、取引の削減や停止などを行うこと。

(8) 有償支給原材料等の対価の早期決済
親事業者が有償で支給する原材料などで下請事業者が物品を製造する際、原材料費を下請代金の支払いより先に下請け業者から徴収すること。また親事業者が支払う下請代金から控除(相殺)すること。

(9) 割引困難な手形の交付
下請代金を手形で支払う場合、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付すること。

(10) 不当な経済上の利益の提供要請
協賛金や親会社からの従業員派遣費用などで、親事業者が下請事業者に金銭や役務といった経済上の利益を不当に提供させること。

(11) 不当な給付内容の変更・不当なやり直し
下請事業者に責任がないのに、発注の取り消しもしくは発注内容の変更を行う。または受領後にやり直しをさせること。

公正取引委員会や中小企業庁は、書面調査を通じて下請取引が公正に行われているかを厳しく取り締まっています。必要に応じて親事業者の取引記録の調査や、立ち入り検査を行うこともあります。

親事業者の義務・禁止事項等
【出典】公正取引委員会「下請法の概要」より作図

下請法違反が認められた場合、公正取引委員会から禁止行為の取りやめ、原状回復、再発防止措置の勧告がなされると同時に、親事業者の社名と共に違反と勧告の内容が公表されます。また前述の親事業者の義務である「発注書面の交付」と「取引記録の書類の作成・保存」を怠った場合や、書面調査において虚偽の報告や妨害を行った場合、最高50万円の罰金が科せられることがあります。

下請法に違反すると、企業の信用は大きく失墜することになります。下請法への理解を従業員に周知するのはもちろん、業務の依頼や支払いを担当者のみに任せることは避けて、適切な発注方法を行えているかどうかを点検しあうのがよいでしょう。さらに、定期的に内部監査を行うなどの対応も必要です。

私たちの経済活動は、さまざまな事業者が協力することによって成り立っています。そこには複雑な業務委託の構造がありますが、強い立場にある親事業者だけが得をすることなく、業務を発注される下請事業者と共に公正な経済活動を目指すことが、真に豊かな社会をつくっていくことを忘れてはいけないでしょう。

いくら事情があったとしても、親事業者が支払い時期を遅らせるのは下請法違反になるんだね。たしかに相手からしたら理不尽だもんなぁ
取引先に無理を強いることがないように、一つひとつの発注で良い関係を保っておきたいよね

富士フイルムグループの取り組み

富士フイルムグループでは、コンプライアンスを「法律に違反しないということだけでなく、常識や倫理に照らして正しい行動をとること」と定義しています。企業活動の基本ポリシーとして「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」を制定し、法令や社会倫理に則った活動の徹底を図るとともに、コンプライアンス宣言を通じて、事業活動においてコンプライアンスを優先することを富士フイルムグループ全従業員に周知徹底しています。

PROFILE

塚脇 吉典つかわき・よしのり
一般社団法人日本コンプライアンス推進協会理事。「コンプライアンス経営」に関する啓発や、情報セキュリティ対策(導入・運用・保守)支援、BCP対策など幅広く活動する。伊東市情報公開審査会/伊東市個人情報保護審査会委員。2018年JCPA出版より『組織は人、人の心を動かし、組織を変える56の法則』を出版、「見える化分析カード」を用いた企業リスク診断システムを発表。

イラスト:佐々木 公(イラストレーター)

記事公開:2021年12月
情報は公開時点のものです