わかる!コンプライアンス
最近よく話題になるものの、意外と意識しづらいコンプライアンス。基礎知識、違反を防ぐ方法などを解説します。
vol.7
企業の未来を左右する?
情報開示の重要性とは。
「情報開示」が重視されるようになったきっかけは?
情報開示とは、企業を取り巻くステークホルダー(従業員、顧客、消費者、株主・投資家、地域社会など)に対し、その企業を適正に評価するために必要な情報を、積極的に発信することをいいます。開示する情報には、会社の経営方針、事業活動、CSR活動などがあります。企業が開示すべき情報は多岐にわたりますが、情報開示と透明性の確保は、企業のコンプライアンスを構成する欠かせない要素です。
ここで近年における企業の情報開示の状況を、簡単に振り返ってみましょう。近年特に企業が情報開示に積極的に取り組むようになったきっかけは、意外なことに1997年に京都で開催された「気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議)」でした。
ここから環境問題に対する取り組みを「企業を評価する一つの指標」とする風潮が高まり、大手企業や製造業者が廃棄物の削減や緑化活動、ISO140011の認証取得状況などを記した「環境報告書」を作成するようになりました。2004年になると「環境報告書」の発行が法令で義務付けられ、環境に対する取り組みを発信することは、企業の社会的責任(CSR)の一部と見なされるようになりました。
もともと会社法や金融商品取引法では、商取引において利害関係者が適正な判断を下せるように、企業が情報開示することが規定されていました。しかし近年、営利目的の活動だけでなく、企業倫理の向上や社会貢献に積極的に取り組む企業姿勢が評価される、新しい動きが急速に広まってきたのです。多くの企業は経営方針や事業活動だけでなく、SDGs(Sustainable Development Goals)などのよりよい社会をつくる取り組みに関しても、積極的に情報開示するようになっています。
企業は不祥事にどう対応するか。
情報開示の姿勢こそがチェックされるポイント
企業の情報開示を考えるとき、不祥事や重大なミスといったマイナスな情報の開示を無視することはできません。企業が起こしたさまざまな不祥事が、大きなニュースとなっています。
不祥事が発生すると、企業は消費者や投資家から強烈な批判を受け、監督行政による厳正な取り締まりを受けることになります。消費者からの信用を失うことで業績が悪化し、廃業に追い込まれる企業も珍しくありません。
企業の不祥事はマスコミや消費者の目をより厳しくさせ、不祥事を起こさないシステムや制度に対する関心を高めました。これにより企業はコンプライアンスをより重視するようになり、情報開示にもさらに力を入れるようになりました。
マイナスな情報を含めた開示は、企業の存続に関わる深刻で本質的な課題です。普段からコンプライアンス違反リスクの発見と是正に努めていない企業は、不祥事や重大なミスが発生したときに適切な情報開示の対応が遅れ、より大きなダメージを受けることになります。情報開示を軽視する企業はリスクの高い存在と受け止められ、消費者、取引先、投資家から敬遠されてしまうのです。
情報開示への姿勢が、企業を不祥事から救う?
どの企業でも、存続を大きく左右する不祥事は決して起きてほしくないものでしょう。しかし、多様なレベルの不祥事は、企業活動のさまざまな場面で起きており、情報開示を積極的に行うことは、第三者視点での監視を強め、不祥事防止につながるのです。
企業で働いている人々にとっての情報開示と不祥事に関する身近なケースは、職場で法律に違反する問題行為が明らかになった場合などです。「会社のイメージダウンや信用失墜を避けるため黙っていて」と、口止めされたら、部下はどうするべきでしょうか。問題行為や不祥事を隠しても、結局は会社のためにならないばかりか、違法行為に加担したと見なされることも。その場合、事実を隠した個人も責任を問われることになります。
もし自分の職場で法律違反になるような何らかの問題が起き、上長が報告を受け入れない場合は、社内に設置されているコンプライアンス窓口に相談しましょう。問題を起こさないよう業務を遂行するのは大前提ですが、もし問題が起きた際は、隠すよりも適切に対処したほうが社会から評価されることを理解しておきましょう。
万が一、不祥事が発生した場合、企業は下記のような情報開示原則に則って、適切に対応することが重要となります。
<開示原則例>
- 適切な情報開示を積極的に行い、自社を取り巻くさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションを図る。
- 法定開示、適時開示の遵守に努めるだけでなく、任意開示についても公開可能な事実は自主的に開示する。
- 法定開示、適時開示の開示時期を厳守する。任意開示においても公開可能な事実については、可能な限り早期のタイミングで情報開示する。
- あらゆるステークホルダーに対して、偏ることなく公平に情報発信を行う。
- 情報開示内容に関わる役職員は、情報開示までの情報管理を徹底する。
情報開示といっても、単にいつも決まった情報を発信していればいいというわけではありません。企業が社会で信頼を得て評価されるためには、普段から積極的にさまざまな種類の情報を提供する姿勢が不可欠です。そして、その姿勢は、社内でのコンプライアンス徹底にもつながります。万が一不祥事が起きても、開示したほうがステークホルダーにプラスとなるという判断をし、情報開示していく誠実な考え方が、優良企業として生き残る鍵の一つといえるでしょう。
富士フイルムグループの取り組み
富士フイルムグループでは、コンプライアンスを「法律に違反しないということだけでなく、常識や倫理に照らして正しい行動をとること」と定義しています。企業活動の基本ポリシーとして「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」を制定し、法令や社会倫理に則った活動の徹底を図るとともに、コンプライアンス宣言を通じて、事業活動においてコンプライアンスを優先することを富士フイルムグループ全従業員に周知徹底しています。
PROFILE
- 塚脇 吉典つかわき・よしのり
- 一般社団法人日本コンプライアンス推進協会理事。「コンプライアンス経営」に関する啓発や、情報セキュリティ対策(導入・運用・保守)支援、BCP対策など幅広く活動する。伊東市情報公開審査会/伊東市個人情報保護審査会委員。2018年JCPA出版より『組織は人、人の心を動かし、組織を変える56の法則』を出版、「見える化分析カード」を用いた企業リスク診断システムを発表。
イラスト:佐々木 公(イラストレーター)
記事公開:2021年6月
情報は公開時点のものです