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「一人歩きする資料」の作り方

対面やオンラインで説明をしなくても、読み手が内容を十分に理解できる
「一人歩きする資料」作成のためのテクニックや考え方を、元外資系コンサルタントが教えます。

vol.11

スピーディーに完成度を上げる!
スライド作成を効率化するルール設定の大原則(1)

資料をより分かりやすく! ルールを決めて効率性とブランドイメージをアップ

前回まで、スライド全体の構成とストーリーを明確にするスケルトンの作成方法を説明しました。そして、スライドの内容を具体的に作り始める前の準備として取り掛かるのが、「ルール」の設定です。

ルールを設定することで、作業を効率的に、ムダなく進めていくことができます。さらには、部署内や会社全体でルールを統一することで、資料の作成や共有、統合時のムダな作業を防ぐこともできます。若手社員が長時間かけて、フォントや色が異なる複数の資料の統合作業を行う……なんてこともなくなるはずです。加えて、統一されたルールに基づいて作成された資料は、会社のブランドイメージ向上にもつながります。ルールを設定し効率化を図りましょう。

具体的には、次の5つの要素のルールを定めます。
(1)レイアウト
(2)文字
(3)矢印
(4)図形
(5)配色

このルール設定を、今回から2回に分けて解説していきます。今回は、「レイアウト」「文字」「矢印」の3つについて解説します。それでは順番に見ていきましょう。

リーダビリティを意識した読みやすいレイアウトの法則とは

ルール設定の前に、まずはスライドレイアウトの基本的な考え方を理解しましょう。1枚のスライドに複数のグラフや図解、画像を配置する際、レイアウトには「法則」があります。

レイアウトの法則1 スライドは「左から右」「上から下」に読まれる

レイアウトは、人の目の動きを手がかりにします。通常、読み手がスライドを読む際、「左から右」「上から下」という流れで、Z型に目線が移動します。図形やグラフは、読み手の目の動きを踏まえて配置することが大切です。広告の世界などでは、初めて見る人にいかに分かりやすく訴求するか、読みやすさ・可読性を意味する“リーダビリティ”という言葉が重要視されますが、これはスライド作成についても当てはまります。

例えば2つのグラフを並べて配置する場合、最初のグラフが左に、次のグラフが右となります。伝えたいメッセージに合わせて、最初に見てもらいたいグラフを左に、次に読んでもらいたいグラフを右にといった具合に意図して配置するわけです。また、上から下に順番にスライドが読まれることを踏まえて配置しましょう。

目線の動きを想定して配置した例

では、スライド全体に図やグラフを配置する場合はどうでしょうか。読み手の目は、スライドでZ型に動くので、左上→右上→左下→右下という流れを意識したレイアウトで内容を配置すると、自然に読めるスライドになります。反対に、この流れを無視して配置すると読みにくくなってしまいます。

Z型に配置した例

レイアウトの法則2 スライドは「2分割」または「4分割」して使う

1枚のスライドで複数の情報を示す場合、スライドを分割してレイアウトします。スライドメッセージを根拠づけるために、前述したように2つのグラフを並べて見せることもできますし、グラフに箇条書きや図解を組み合わせて見せることも可能です。読んでほしい順番に配置します。

スライドを左と右に2分割した例

読み手の目線を踏まえて、4分割にする場合はZ型に配置します。ただし、情報量が多くなり、読みにくくなってしまうため、多用は避けるようにしましょう。

スライドをZ型に4分割した例

読みやすさがガラッと変わる! 押さえておきたいフォントのルール

次は、使用する「文字」についてです。文字の書式には、フォントの種類やサイズ、色など、さまざまな要素がありますが、書式に一貫性のない資料は、資料の内容に対する信頼性も低くなりがちです。文字のルールをしっかり決めて、資料を作成するようにしましょう。誰に向けた資料なのかを考慮し、過度な装飾はせず、見やすさを重視するのがポイントです。


1.フォントの種類:「MS Pゴシック」は万能フォント

フォントにはそれぞれ特徴があります。その特徴に応じて、相手に特定の印象を与えるため、それぞれどのような印象を与えるか、理解した上でセレクトしましょう。

主なフォントの例

この中で、一人歩きする資料の作成におすすめしたいのが「MS Pゴシック」です。どんな業界の資料でも使える万能のフォントです。明朝体を好む方もいると思いますが、基本的に長い文章に適したフォントのため、プレゼンテーションソフトよりも文書作成ソフトに向いています。

「MS Pゴシック」に近いフォントに「MSゴシック」がありますが、これは文字の幅が全て均等なフォントです。文字の間隔がやや広く、スライド上では読みにくくなってしまうため、文字ごとに適切な文字幅が設定されている「MS Pゴシック」が使いやすいでしょう。

なお、英語のフォントは「Arial」がおすすめです。これもビジネス向けとして万能なフォントです。日本語と英語が混じった文章の場合、日本語と英語でそれぞれ異なるフォントを選択すると見やすくなります。


2.文字の色:ソフトな印象にしたいときは「濃いグレー」を

ビジネス文書では通常、文字色は黒を選ぶのが無難です。しかし、ソフトな印象を与えたいときは「濃いグレー」を使うのがおすすめです。また、読み手の目への負担も軽減できます。

濃いグレーの文字は、やわらかい印象になるので消費者向けのサービス紹介などに特に向いています。金融業界や公共団体など、フォーマルな印象が好まれる業界の場合は、文字色は黒にするといいでしょう。


3.文字サイズ:一人歩きする資料なら本文「14pt」がおすすめ

文字サイズは、スライド内の要素に応じて変える必要があります。配布することを目的とした一人歩きする資料の場合、要素ごとのサイズは、下記がおすすめです。

要素ごとのおすすめの文字サイズ

矢印をアクセントにして「読み手の目線」をコントロール

読み手が資料を読む際、それぞれが興味のある部分に注目して読んでしまいがちですが、本来は作り手が意図した順番に読んでもらうのが、資料の内容を理解する上では最も効率的です。

そこで、読み手の目の動きをコントロールするために使いたいのが「矢印」です。矢印には、強調や流れなどを示す機能があるため、うまく使うことで分かりやすく情報を伝えることができます。一方で、矢印にはたくさんの種類があるため、矢印の使い方にもルールを決めないと、逆に分かりにくい資料になってしまうこともあるので注意しましょう。


1.「カギ線矢印」を使用し、矢印の先端は「▶」、色は「グレー」に

  • 矢印の先端は「>」ではなく「▶」を使用する。後述する三角矢印とも形が似ているので統一感が出せる。
  • 矢印の色は「グレー」に統一する。矢印の機能は流れや強調を示すことなので、目立つ必要はない。
  • 矢印の線は、直角に曲がる「カギ線矢印」を使用する。通常の線矢印よりも省スペースで目立ちにくい。
矢印の角度の例


2.「三角矢印」で全体の流れを示す

「三角矢印」は、図形の三角形を矢印として使用するものです。通常の矢印に加えて三角矢印を使いこなせば、表現の幅は大きく広がります。底辺から頂点に向かって集約する図形なので、全体の流れを示すのに向いています。大きく2つの使い方があります。目線の大きな流れを示したい場合と、複数の要素の合流を示したい場合です。

目線の大きな流れを示した例
複数の要素の合流を示した例

今回説明した「レイアウト」「文字」「矢印」のルールを意識してスライドを作成するだけで、効率性・完成度が大きく変わってきます。何事もそうですが、“ひと手間”を加えることが非常に大切です。多少時間がかかっても、今マスターしておけば、今後の資料作りがグッとスムーズになります。

次回は、スライド作りの「ルール設定」の後編です。感覚やセンスに頼らない「図形」と「配色」のルールの決め方について解説します。

PROFILE

松上 純一郎まつがみ・じゅんいちろう
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。外資系コンサルティングファームからNGOに転じ、現在は株式会社Rubato代表取締役を務める。自身のコンサルティング経験に基づいて行う、資料作成の講座が好評を博す。著書に『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』など。

記事公開:2022年9月