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「一人歩きする資料」の作り方

対面やオンラインで説明をしなくても、読み手が内容を十分に理解できる
「一人歩きする資料」作成のためのテクニックや考え方を、元外資系コンサルタントが教えます。

vol.4

資料にもストーリーは必須!
ストーリー作りの大原則(1)
「スライド構成」は4つの要素で。

プレゼンテーションソフトはまだ早い! まずは「スライド構成」を決める

前回は、「資料作り前の目的設定がいかに重要か」を説明しました。そして資料の目的が明確になり、相手に何を伝えたいのかが決まったら、次に取り掛かるのが「資料のストーリー作り」です。

資料のストーリー作りとは、「伝えること」に沿った形で、スライドの構成、各スライドのタイトルとメッセージ、そしてスライドタイプを決めることです。もう少しだけ、プレゼンテーションソフトを開くのはグッと我慢を。表計算ソフトやノートなどに書き込んで進めていきます。

資料のストーリー作りの3ステップ

今回から2回に分けて、この「資料のストーリー作り」の3つのステップについて紹介していきます。今回は前回お伝えした、資料で「伝えること」を複数の要素に分けて、各スライドに当てはめ、ステップ1「スライド構成を決める」ための具体的な方法や手順を解説します。

「いきなりスライド構成を決めろと言われてもどう考えたらいいかわからない!」と思う人も多いでしょう。おすすめは、「伝えること」を要素で分解する方法です。企画書などの提案型資料は、次の4つの要素で説明しましょう。

(1)背景
この資料の重要性を相手に理解してもらえるよう、今回の提案に至った経緯を解説。現状と目標を示す。
(2)課題
目標を達成するために障害となっている原因を示し、何を解決しようとしているのかを明確にする。
(3)解決策
(2)の課題を解決するための方法を説明する。
(4)効果
解決策の実施により期待される効果を示す。それに必要なコスト、実施計画などをあわせて伝える。

「スライド構成を決める」とは、このように4つの要素に分解し、それぞれ何枚のスライドで説明するかを決めることです。非常にシンプルな構成に思えるかもしれませんが、シンプルなだけに相手にとってわかりやすく、説得力が生まれます。ここからさらに詳しく「スライド構成」の作り方を紹介していきましょう。

スライド構成の作り方~「背景」と「課題」を明確にする

日々業務に追われるビジネスパーソンに資料を読んでもらうためには、相手に「自分がなぜこの資料を読む必要があるのか?」ということを最初に理解してもらわなければなりません。

そのため、資料には必ず「背景」を示すスライドを配置し、提案に至った状況を説明しましょう。例えば“売上増加のための企画を提案する”資料なら、「背景」には売上の伸び悩みが説明されていなければなりません。どれくらい売上が伸び悩んでいるのかを「背景」として最初に説明することで、この資料が重要な提案を含むものだと理解してもらうことができます。

資料の重要性を示す「背景」の3つのポイント

注意したいのは、会社や部署として「ありたい姿」が会議の出席者間で統一されていない場合です。それぞれがバラバラのものを想定していると、おのおのが感じている現状とありたい姿のギャップが生まれるため、議論が成り立たなくなってしまいます。そのため資料では、必ず最初に「ありたい姿」を明記して、問題意識を統一することが重要です。

「背景」が決まったら、次に考えたいのが「課題」。
これはコンサルタントが最も重要視する項目です。なぜなら、「課題」を適切に設定できなければ、根本的な解決は決して実現しないからです。

ここでの「課題」は、「背景」にある「ありたい姿と現状のギャップ」を生んでいる問題点のことです。例えば、「売上が目標を下回っている」という背景を生んでいるものとして「営業員の不足」という課題を提示します。

「背景」から「課題」を見つけ出すためには、2つのことを行います。

(1)ギャップの深掘り
現状とありたい姿のギャップを深掘りし、複数の課題を特定する。ポイントは「Why?(なぜ?)」という問いかけを繰り返すこと。

例)背景:現状の売上が目標を下回っている→Why?(なぜ?)
→課題1:製品価格が低下しているから
→課題2:新製品の発売が遅れたことで売上数量が低下しているから
→課題3:他社が新製品を発売したことで売上数量が低下しているから

「Why?(なぜ?)」による深掘りで重要なのは、課題を「モレなく、ダブリなく、見逃さないようにする」ことです。特に、モレがないということは非常に重要です。もし重大な情報にモレがあれば、内容について致命的な指摘を受け、提案が失敗する可能性が高くなります。
(2)取り組むべき課題の設定
取り組むべき課題の絞り込みをする。課題を絞り込むときには、「解決できる可能性が高く」かつ「重要度・緊急性が高い」ものを、取り組むべき課題として設定することが多い。

このように「背景」と「課題」を設定できたら、次の「解決策」を検討するステップに入ります。

スライド構成の作り方〜「解決策」を検討し、得られる「効果」を示す

「解決策」の検討とは、現状と目標のギャップを生んでいる原因である「課題」をどうすれば克服できるかを考えることです。「解決策」の策定では、次の図のように、3つのポイントが重要です。

「解決策」の策定で考慮すべき3つのポイント

最後に「解決策」の実施によって、どのような「効果」を得られるかを示します。重要なのは“費用対効果を示すこと”。

具体的にはまず、可能な限り数字で定量的に(できない場合は定性的に)効果を示し、解決策の実施に必要な人員、スキル、ツール、コストを明らかにします。そして、実施計画として具体的なアクションとそれぞれの期間を提示すれば、提案する解決策の費用対効果をイメージしてもらうことができるでしょう。

スライド構成が決まれば、スライド枚数が決まる

これまで解説した「背景」「課題」「解決策」「効果」の4つの要素は、それぞれ1枚のスライドで表すこともあれば、複数枚のスライドにわたって表すこともあります。どの要素にフォーカスを当てるかによって、スライド構成を決定しましょう。

なお、毎回必ず4つの要素を盛り込んだ資料を作成するべき、というわけではありません。例えば、説明を複数回行う場合は「課題のみで構成された資料」を作成するなど、提案のプロセスに応じて1つの要素に絞ることもあります。あくまで目的に沿った資料を作るようにしてください。

次回は「資料ストーリー作りの大原則」後編。「一人歩きする資料」のポイントともいえる、タイトルやメッセージの決め方について紹介します。

PROFILE

松上 純一郎まつがみ・じゅんいちろう
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。外資系コンサルティングファームからNGOに転じ、現在は株式会社Rubato代表取締役を務める。自身のコンサルティング経験に基づいて行う、資料作成の講座が好評を博す。著書に『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』など。

記事公開:2021年10月