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「一人歩きする資料」の作り方

対面やオンラインで説明をしなくても、読み手が内容を十分に理解できる
「一人歩きする資料」作成のためのテクニックや考え方を、元外資系コンサルタントが教えます。

vol.3

いきなり資料作成はちょっと待って!
4ステップでまず目的を整理。

いきなりプレゼンテーションソフトを開くのはストップ!
まずは資料の目的を明確に

今回のテーマは「一人歩きする資料」における「資料の目的」です。第2回で「資料は早く作ると質が向上する」とお話ししましたが、だからといってすぐプレゼンテーションソフトを開き、スライドを作り始めてはいけません。

設計図ができていない状態で家を建て始めてはいけないように、資料作りも最初に「その資料の目的は何か?」ということを具体的に考えて、全体設計の準備をする必要があります。資料の完成度は、「資料の目的の具体化」が明確にできているか否かで80%が決まるといっても過言ではありません。

資料の目的の具体化とは、「誰」に対して「何」を伝え、どのような「行動」を起こしてもらうのか?そして、そのために「伝えるべきこと」は何か?を明らかにすることです。

プライベートでのコミュニケーションなら、とりとめもなく自分の感じたことや話したいことを話して構いません。なぜなら「コミュニケーション自体」が目的だからです。

一方、仕事上のコミュニケーションは「相手に何らかの行動を促すこと」が一番の目的です。時折、資料作成自体が目的化してしまうケースを見かけますが、資料作成は相手に何らかの行動を起こしてもらうための手段であるということを必ず意識しましょう。

4つのステップをマスターして、迷走による時間の無駄を防ぐ

資料作りで最も避けたいのは、作成の途中でどの情報を追加するべきか、削除するべきかがわからなくなり迷走してしまうことです。この状態が続けば、時間ばかりを浪費することになってしまいます。「資料の目的」が最初に明確になっていれば、資料作りが迷走しかけても本来の目的に立ち戻って考えることができ、比較的短時間で元のペースに戻ることが可能になります。

「資料の目的」を具体化するステップは、(1)「伝える相手」を分析する、(2)「期待する行動」を決める、(3)「自分の見られ方」を分析する、(4)「伝えること」を決める、という4つに分けられます。

「資料の目的」具体化の4ステップ

以下で、それぞれのステップについて解説します。

ステップ(1)「伝える相手」を分析する

会議で複数の参加者に説明を行う場合などは、つい参加者全員の顔を思い浮かべながら資料作成をしてしまいがちです。しかし、それでは考慮すべき点が多くなり、資料の目的が曖昧になってしまいます。

資料を作るときは、複数の人間を想定するのではなく、決裁権がある意思決定者にターゲットを絞りましょう。もし意思決定者に強い影響を与える人物(インフルエンサー)がいる場合は、その人にターゲットを絞ります。「意思決定に影響を与えるのは誰か?」を明確にするのがポイントです。

伝える相手が決まったら、相手を以下の3つの観点から分析し、資料への反映を検討します。

  1. インセンティブ
    「やる気を出すために必要な要素」のこと。例えば昇進、昇給、同僚との調和などその人のやる気を引き出すポイントを分析し、押さえる。
  2. バリアー
    「やる気を失う要素」のこと。新たな業務の発生、従来の仕事のやり方の変更、失敗のリスクなどを分析することで、やる気を失う要素を資料から排除する。
  3. 知識・興味・性格・立場
    「知識・興味」は、その人が「知識や関心を持つ要素」のこと。統計の知識がある、大規模な企画に興味があるなど。「性格・立場」は、その人の資料の見方に影響するため、例えば短気な人なら短い資料の方がよい、などと考える。

この3つを導くためには、相手の過去の経験や将来の目標を考えるのが効果的です。

ステップ(2)「期待する行動」を決める

次に資料を提示した結果として「相手にどうしてほしいのか?」を決めましょう。ここでは相手が考えなくてもよいくらいに、求める行動を具体的に示すことが重要です。例えば、以下を比べてみると、どちらが行動に移しやすいかは明確です。

<悪い例>「ご検討いただきたい」「ご協力いただきたい」
<よい例>「次回の経営会議までに承認の是非をご回答いただきたい」

相手に期待する行動を決める際は、以下の3つのポイントを大事にしましょう。

  1. 「すぐに取り組める行動」を提示する
    人は資料を読んだ直後が、最も行動へのハードルが低くなっているため、「すぐに取り組める行動」を明示すると、実行してくれる可能性が高まる。このような行動の設定には、目標までの行動を分解することが有効。
  2. 「3W1H」を考える
    誰が(Who)、いつ(When)、どのように(How)、何を(What)するのかを明確にする。
  3. 複数の選択肢を提示する
    行動を1つのみ提示されると、中には「やらされ感」を感じて拒否反応を示す人も。相手に「自分で選んだ」と感じてもらえるよう、具体的な行動の選択肢を複数提示するのも有効。ただし、選んでほしくない選択肢は含めないようにすること。

ステップ(3)「自分の見られ方」を分析する

ここでいう「自分」とは、相手から見た「自分」のことです。現在、相手から自分がどんな強み・弱みを持っていると思われているかを考えてみましょう。それには仕事での関係を振り返ってみることが有効です。「(相手から見た)自分の知識、経験」「(相手から見た)立場、信頼度」「(相手から見た)自分の性格」を中心に考えます。

例えば、自分が相手から「ミスが多い」という印象を持たれていたら、企画書に綿密な準備計画を盛り込むようにします。「ミスを防止するための努力をしている」という姿勢を強調するのです。

多くの人は、自分の見られ方に対して先入観を持っています。そのため自分だけで考えるよりも、できれば周りの人の客観的な意見も聞くようにすると、より適切な内容になり、自分自身の理解にもつながります。

ステップ(4)「伝えること」を決める

目的設定の最後は、「伝えること」を決めましょう。資料で提案する内容を150文字以内にまとめます。多忙なクライアントにも短時間で内容を伝えられるようになるほか、自身の認識も明確になることで、資料の一貫性がキープされ、内容に迷ったとき、常に立ち戻って考えられるというメリットもあります。

そして、「伝えること」の150文字の中に、課題・解決策・効果・行動の要素を含めるようにします。

課題:目標達成の障害となっている原因
解決策:課題を解決するための方法
効果:解決策の実施で期待される効果
行動:提案を受けて相手に起こしてほしいアクション

次に、ステップ(1)「伝える相手」の分析とステップ(3)「自分の見られ方の分析」から得た要素を加味しましょう。ここで分析したことを意識してブラッシュアップすることで、より相手に刺さる内容へと改善することが可能になります。

最初の10分でもOK! まずは「資料の目的」を明確に

読者の方の中にも「相手に期待する行動なんてわからないし、とにかく資料を作り始めたい」と思う方もいるかもしれません。私も目的を設定せずにいきなりプレゼンテーションソフトを開いてしまうことがよくあります。

でもそれに気がついたときは、すぐにやめるようにしています。これまでの経験から、最初に資料の目的を考えるだけで、資料作成プロセスの質も効率も変わり、大きな違いが出るからです。最初の10分でもよいので、資料の目的を今回紹介した4つのステップで考え、明確にしておくだけで、今までよりも完成度の高い「一人歩きする資料」が作れるようになるでしょう。

参考までに、資料の目的を整理するためのシートをご用意しました。資料作成の指針作りにお役立てください。

PROFILE

松上 純一郎まつがみ・じゅんいちろう
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。外資系コンサルティングファームからNGOに転じ、現在は株式会社Rubato代表取締役を務める。自身のコンサルティング経験に基づいて行う、資料作成の講座が好評を博す。著書に『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』など。

記事公開:2021年9月