資料作りで最も避けたいのは、作成の途中でどの情報を追加するべきか、削除するべきかがわからなくなり迷走してしまうことです。この状態が続けば、時間ばかりを浪費することになってしまいます。「資料の目的」が最初に明確になっていれば、資料作りが迷走しかけても本来の目的に立ち戻って考えることができ、比較的短時間で元のペースに戻ることが可能になります。
「資料の目的」を具体化するステップは、(1)「伝える相手」を分析する、(2)「期待する行動」を決める、(3)「自分の見られ方」を分析する、(4)「伝えること」を決める、という4つに分けられます。
「資料の目的」具体化の4ステップ
以下で、それぞれのステップについて解説します。
ステップ(1)「伝える相手」を分析する
会議で複数の参加者に説明を行う場合などは、つい参加者全員の顔を思い浮かべながら資料作成をしてしまいがちです。しかし、それでは考慮すべき点が多くなり、資料の目的が曖昧になってしまいます。
資料を作るときは、複数の人間を想定するのではなく、決裁権がある意思決定者にターゲットを絞りましょう。もし意思決定者に強い影響を与える人物(インフルエンサー)がいる場合は、その人にターゲットを絞ります。「意思決定に影響を与えるのは誰か?」を明確にするのがポイントです。
伝える相手が決まったら、相手を以下の3つの観点から分析し、資料への反映を検討します。
インセンティブ
「やる気を出すために必要な要素」のこと。例えば昇進、昇給、同僚との調和などその人のやる気を引き出すポイントを分析し、押さえる。
バリアー
「やる気を失う要素」のこと。新たな業務の発生、従来の仕事のやり方の変更、失敗のリスクなどを分析することで、やる気を失う要素を資料から排除する。
知識・興味・性格・立場
「知識・興味」は、その人が「知識や関心を持つ要素」のこと。統計の知識がある、大規模な企画に興味があるなど。「性格・立場」は、その人の資料の見方に影響するため、例えば短気な人なら短い資料の方がよい、などと考える。
この3つを導くためには、相手の過去の経験や将来の目標を考えるのが効果的です。
ステップ(2)「期待する行動」を決める
次に資料を提示した結果として「相手にどうしてほしいのか?」を決めましょう。ここでは相手が考えなくてもよいくらいに、求める行動を具体的に示すことが重要です。例えば、以下を比べてみると、どちらが行動に移しやすいかは明確です。
<悪い例>「ご検討いただきたい」「ご協力いただきたい」
<よい例>「次回の経営会議までに承認の是非をご回答いただきたい」
相手に期待する行動を決める際は、以下の3つのポイントを大事にしましょう。
「すぐに取り組める行動」を提示する
人は資料を読んだ直後が、最も行動へのハードルが低くなっているため、「すぐに取り組める行動」を明示すると、実行してくれる可能性が高まる。このような行動の設定には、目標までの行動を分解することが有効。
「3W1H」を考える
誰が(Who)、いつ(When)、どのように(How)、何を(What)するのかを明確にする。
複数の選択肢を提示する
行動を1つのみ提示されると、中には「やらされ感」を感じて拒否反応を示す人も。相手に「自分で選んだ」と感じてもらえるよう、具体的な行動の選択肢を複数提示するのも有効。ただし、選んでほしくない選択肢は含めないようにすること。
ステップ(3)「自分の見られ方」を分析する
ここでいう「自分」とは、相手から見た「自分」のことです。現在、相手から自分がどんな強み・弱みを持っていると思われているかを考えてみましょう。それには仕事での関係を振り返ってみることが有効です。「(相手から見た)自分の知識、経験」「(相手から見た)立場、信頼度」「(相手から見た)自分の性格」を中心に考えます。
例えば、自分が相手から「ミスが多い」という印象を持たれていたら、企画書に綿密な準備計画を盛り込むようにします。「ミスを防止するための努力をしている」という姿勢を強調するのです。
多くの人は、自分の見られ方に対して先入観を持っています。そのため自分だけで考えるよりも、できれば周りの人の客観的な意見も聞くようにすると、より適切な内容になり、自分自身の理解にもつながります。
ステップ(4)「伝えること」を決める
目的設定の最後は、「伝えること」を決めましょう。資料で提案する内容を150文字以内にまとめます。多忙なクライアントにも短時間で内容を伝えられるようになるほか、自身の認識も明確になることで、資料の一貫性がキープされ、内容に迷ったとき、常に立ち戻って考えられるというメリットもあります。
そして、「伝えること」の150文字の中に、課題・解決策・効果・行動の要素を含めるようにします。
課題:目標達成の障害となっている原因
解決策:課題を解決するための方法
効果:解決策の実施で期待される効果
行動:提案を受けて相手に起こしてほしいアクション
次に、ステップ(1)「伝える相手」の分析とステップ(3)「自分の見られ方の分析」から得た要素を加味しましょう。ここで分析したことを意識してブラッシュアップすることで、より相手に刺さる内容へと改善することが可能になります。