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「一人歩きする資料」の作り方

対面やオンラインで説明をしなくても、読み手が内容を十分に理解できる
「一人歩きする資料」作成のためのテクニックや考え方を、元外資系コンサルタントが教えます。

vol.7

活用すればサクサク進む!?
仮説作りを効率化するフレームワークの使い方とは。

ビジネスフレームワークを使って、メッセージに説得力を持たせる!

前回は、スライドの内容を根拠づけるために欠かせない、情報収集の前準備の大切さを説明しました。今回は、スライド情報の仮説作りに不可欠な「フレームワーク」について、詳しく解説していきましょう。

フレームワークとは、世の中でよく用いられている「考え方の枠組み」のこと。これを利用することで、メッセージを根拠づけるための大事な情報が抜け落ちたり、情報が重複したりするのを防ぐことができ、メッセージに説得力を持たせられます。

ビジネスの情報収集を目的とした仮説作りであれば、「ビジネスフレームワーク」を使うのがおすすめです。「3C分析」や「マーケティングの4P」などが有名ですが、「背景」「課題」「解決策」のスライドごとに、よく使われるビジネスフレームワークは異なります。

例えば、背景スライドで業界分析や自社分析を行うなら「PEST分析」「ファイブフォース分析」「3C分析」、課題スライドで自社の課題を分析するなら「バリューチェーン分析」「組織の7S」「購買行動分析」、解決策スライドのための情報を収集・整理するなら「マーケティングの4P」が適しているといった具合です。それぞれ見ていきましょう。

(1)「背景」スライドによく使われるビジネスフレームワーク

・PEST分析
業界を取り巻く外部環境を、「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4方向から検討するフレームワーク。業界に影響を与える外部環境の情報収集に適している。
・ファイブフォース分析
業界の特徴を整理するためのフレームワーク。ファイブフォースとは、自社に対する脅威となる5つの要素のこと。「買い手(顧客)の交渉力」「供給業者の交渉力」「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「業界の競合度」の5つの観点から分析する。業界内部の環境についての情報収集に向いている。
・3C分析
ビジネスのプレーヤーを「市場環境・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つに分けて、自社の現状を分析するフレームワーク。
「背景」スライドによく使われるビジネスフレームワークの例

(2)「課題」スライドによく使われるビジネスフレームワーク

・バリューチェーン分析
自社の商品やサービスの課題に関する情報を集めるときに適している。例えば、自社の商品の利益率が低いという課題であれば、「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」ごとの原因について情報を集める。
・組織の7S
組織を「戦略(Strategy):組織の計画・行動方針」「組織(Structure):組織の形態・構造」「システム(System):組織の仕組みの特徴」「価値観(Shared value):組織内に共通する理念・概念」「スキル(Skill):組織の能力」「人材(Staff):人材の能力」「スタイル(Style):社風・組織の文化」の7つの要素に分けて、その状態を俯瞰し分析するフレームワーク。組織の課題についての情報を集めるときの枠組みに向いている。
・購買行動分析
顧客の購買行動を分解するためのフレームワーク。消費者の購買行動についての情報を集める際の仮説作りに向いている。例えば、ある商品について課題を洗い出す場合、「認知」「情報収集」「来店」「購入」「評価」の各段階に分けて情報を収集し、課題を見つけていく。
「課題」スライドによく使われるビジネスフレームワークの例

(3)「解決策」スライドによく使われるビジネスフレームワーク

・マーケティングの4P
マーケティングを「商品(Product)」「価格(Price)」「流通・場所(Place)」「販促(Promotion)」の4つの観点から検討する。新しい製品やサービスのマーケティング戦略を立案するのに必要な情報を収集、整理するときの仮説作りに適している。
「解決策」スライドによく使われるビジネスフレームワークの例

ただし、ケース・バイ・ケースのため、ビジネスフレームワークとスライドとの相性は参考程度と捉えるのがよいでしょう。

モレなくダブリのない「時系列」フレームワークも有効

ビジネスフレームワークを使ったスライド情報の仮説作りについて一通りつかんだら、次はより一般的なフレームワークを見ていきましょう。

一般的なフレームワークは、ビジネスフレームワークに比べて汎用性が高いのがポイント。例えば「ヒト・モノ・カネ・情報」「心・技・体」などがありますが、さまざまなスライドで「情報の仮説作り」に役立てることができます。

その中でも特におすすめなのが、「時系列」のフレームワークです。時間の流れにはモレがなく、ダブリもありません。そのため情報を整理しやすく、完成したスライドも時系列のストーリーになるため、資料の読み手にとって理解しやすいのが特徴です。例えば、営業の課題であれば、営業のプロセスを「計画」「準備」「実施」「振り返り」のように時系列に分けることで、効率的に情報を集めて整理できるでしょう。

さらに、このフレームワークでは「前」と「後」で分ける方法が効果的です。例えば課題の解決策を導入するときの情報を整理する場合、「導入前」と「導入後」に分けることで、どのような変化が起こったかが明確化され、資料の読み手が理解しやすくなります。また、そこから発展させて、「前」「中」「後」とするのも有効です。

時系列フレームワークの例

「足し算」と「掛け算」を使って要素を分解する!

ここまで紹介したビジネスフレームワークと時系列フレームワークは、対象となる物事を足し算、あるいは掛け算で分解した枠組みです。例えば、店舗の売上低下で見てみると、3C分析では「店舗の売上低下」という背景を「自社:設備の老朽化」+「競合:他店の増加」+「市場:地域人口の減少」という3つの足し算の要素に分けられます。掛け算の例であれば、「店舗の売上低下」という課題を「地域世帯数の減少」×「世帯当たり人数の減少」×「来店客数の減少」の3つの要素に分解できるといった具合になります。

「足し算」は背景スライド、「掛け算」は課題スライドでのスライド情報の仮説作りに適しています。ビジネスでの多くの課題は、「質×量」という仮説に分解できるので、試してみてください。

足し算・掛け算で分解した例

足し算と掛け算で分解する方法は便利ではあるものの、初めて使うには難しいかもしれません。まずはビジネスフレームワークや時系列フレームワークに当てはめて活用してみましょう。フレームワークに慣れたら、次のステップとして足し算や掛け算を使って、目的に応じた分解方法にチャレンジしていくとよいでしょう。

フレームワークを使って仮説作りをしたあとは、できるだけ高品質かつ高効率に情報収集を行いたいものです。次回は、時間を無駄にしない、情報収集術について解説します。

PROFILE

松上 純一郎まつがみ・じゅんいちろう
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。外資系コンサルティングファームからNGOに転じ、現在は株式会社Rubato代表取締役を務める。自身のコンサルティング経験に基づいて行う、資料作成の講座が好評を博す。著書に『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』など。

記事公開:2022年3月