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5分でわかる 仕事効率化のツボ

アウトプットに圧倒的差を生む、仕事を効率化するポイントを紹介します。

vol.6

出世して一番に覚えるべきは「手抜き」!?

「丁寧な仕事第一」の働き方は見直しの時期かも

日本のビジネスシーンでは「丁寧な仕事を心がけるのが何より大事」と思われがちです。
特に若手の時期に、丁寧な仕事を褒められ評価されると、さらに頑張る気持ちがわいてきた経験がある人は多いのではないでしょうか。

確かに、「丁寧な仕事」そのものに罪はありませんが、本連載の第4回でも述べたように、費用対効果に対する観点が欠落しているケースが少なからず見受けられます。実際にそれによってもたらされる利益や事業に与える影響まで考慮に入れたとき、丁寧な仕事が本当に必要であるとはいえない場面も多いのです。

まして、社内のポジションがそれなりに上がってきている人や管理職ともなると、やるべき業務は増えていくもの。仕事の効率化を進めるうえでは、適切な「手抜き」を覚えなければ仕事が回らない段階にきているはずです。

ここでいう「手抜き」は、「いい加減な仕事をする」という意味ではなく、「惰性で続いているだけの、ムダあるいは非効率なタスクを思い切ってなくす」行為を指します。

社内のルールを見直す、または、それを周囲に働きかけていける立場にあるのなら、例えば、

  • 丁寧さの面から必要とされてきた儀礼的なメール
  • 慣習的に行われている会議や朝礼

このようなものをなくしていくのも、一つの手です。

今回は、私がコンサルティング業務で関わったある企業(A社)の事例を、具体例として以下でご紹介しましょう。

「読んだ」を伝えるメールは本当に必要?
チャットの使い方も要注意

A社で取り組んだのは、上司から部下へのメール削減でした。

「部下からの報告メールには、原則として返信しない」
これだけを社内ルールとして取り決め、周知したのです。

この動きを始めたのは、部下からの報告に対して、どのように対応すれば効率が上がるのかを検討しているとき、「そもそも報告を読んだことを部下にいちいち伝えないといけないのか」という意見が管理職から出たのがきっかけでした。

そして、「読んだ」というメールをなくすうえで、「ただし、相談や助言が必要なときのみ返信する」という条件を付けるかどうかを考えました。しかしA社では、部下からの相談は対面か電話が一般的でした。部下がメールで相談を持ちかけるのはまれな例です。

そこで「部下からの報告メールには、原則として返信しない」をルールとして決め、それを全社員に周知しました。管理職だけでなく社内全体に知らせるのは、「返信がないのは、上司の怠慢や傲慢ではない」ということを全員が理解している前提がこのルールの適用において重要だからです。

その結果、部下宛てのメールを8割以上減らせる効率化が実現できました。1人ひと月当たり260通の削減となり、1通当たり3分かけていたとするなら、780分。つまり、ひと月で13時間分のタスクを削減できたわけです。

また、このルールの運用では、副次的な効果もありました。
「上司からの返信」に対する「返信」が減り、部下から上司へのメールも、合わせて大きく削減できたのです。さらに、上司への報告メールそのものも見直されるきっかけとなりました。実は、一方通行で上司にメールしなければならない連絡事項、それも毎日のメール報告が必要な事項は、極めて少ないという事実がわかったのです。

昨今では、チャットツールを導入している企業も多いでしょう。ここでも、無駄な返信、報告が慣例化していないか、見直してみるとよいでしょう。便利なことにチャットツールでは、既読を示す機能や、ワンクリックで返事を伝えられるリアクションボタンが備えられていますが、ビジネスの場でこうした機能を使うことは礼儀に反すると考える人もいるかもしれません。

しかし、「なんとなく丁寧だから」という理由からテキストで返信することが一般的になっているなら、その考え方は効率化の敵です。自分の部署、チーム内だけでも、一刻も早く「返信をしないルール」を敷いてしまうのがよいでしょう。

朝礼や会議の必要性は可視化して見直す

A社では、メールの利用時間の削減と並行して、会議の削減にも取り組みました。
当初、削減の候補となったのは、「会議」「自席周辺での打ち合わせ」「朝礼」などで、それまでは、1人1日当たり平均145分費やしている状況でした。

そこで、さらに検討を重ねて、必要に応じて不定期に行われる「自席周辺での打ち合わせ」より「会議」「朝礼」のほうが削減しやすいと見込み、それらから着手することにしました。

とはいえ、やみくもに会議を減らすには無理があります。そこで、何の会議を減らし、何を残すかの検討にあたっては、製造現場の業務改善でよく用いられる「ECRSの視点」というフレームワークを活用することにしました。

ECRSとは、

  • E/Eliminate(排除)=「そもそもその業務は必要か、いっそやめてしまえないか?」
  • C/Combine(結合)=「ほかの仕事とまとめてやってしまえないか?」
  • R/Rearrange(代替)=「ほかの方法に置き換えられないか?」
  • S/Simplify(簡素化)=「そこまで必要か、もっと簡素化できないか?」

という着眼点を意味しています。

この事例では、社内の前会議の参加者、開催頻度、会議時間、目的などを調べた一覧表を作成し、各会議にECRSのどれが該当するかを検討しました。

その結果、

  • 朝礼は、E(排除)が可能。「慣習で行っているだけなので廃止できる」ため
  • 事業戦略会議は、C(結合)が可能。「参加者と会議目的が部長会議とほぼ同じなので、統合できる」ため
  • 営業会議は、R(代替)が可能。「情報共有と進捗管理が目的だが、営業情報システムのデータ共有に切り替えられる」ため
  • 部長会議は、S(簡素化)が可能。「参加者から次長を外せる」ため

といったことが判明し、実行に移しました。

「ECRSの視点」を用いた会議効率化検討資料

しかし、会議のうちでも朝礼に関しては、社内の「文化」に影響を与えかねないと、廃止をためらう声も上がりました。

「たかだか1人当たり15分程度のことで目くじらを立てていたら、職場がギスギスするのでは?」という意見も耳に入りましたが、朝礼に費やしている時間を全社員分に換算すると1年間で1万7000時間程度にものぼります。これを金額に換算して社内に示したところ、あっさり廃止が決まりました。

業務改善や効率化は、1つずつはわずかな時間だとしても、月単位、年単位、関係者人数分のレベルで考えると、見過ごせない量になることを常に意識して取り組むのが大事なのです。今すぐ全社的な動きを起こすのは難しくても、なんとなく定例化してしまっている自分の課、グループの定例会議などがないかを洗い出してみるのが効率化につながります。「これくらいの時間はいいだろう」と思ったら、それによって社員の時間がどれくらい取られてしまっているのか、可視化して検討してみるのがよいでしょう。

PROFILE

各務 晶久
各務 晶久かがみ・あきひさ
株式会社グローディア代表取締役。特定非営利活動法人人事コンサルタント協会理事長。中小企業診断士。大阪市人事に関する専門委員、大阪市特別参与、大阪商業大学大学院非常勤講師などを歴任。著書に『人材採用・人事評価の教科書』(同友館)、『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下』(朝日新聞出版社)、『会社では教えてもらえないアウトプットがすごい人の時短のキホン』(すばる舎)など。

記事公開:2021年11月