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押さえておきたい
「健康経営」の知識

今さら聞けない健康経営に関する基礎知識、健康リテラシーを高めるポイントを解説します。

vol.
04

企業の労働生産性に直結する注目の指標!
プレゼンティーイズム・アブセンティーイズムとは。

従業員は皆真面目に働いているのに、なぜか業績が振るわない……。
その理由は、労働生産性の低下にあるのかもしれません。近年、労働生産性への
影響度を測る指標として、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの
2つが大きな注目を集めています。今回は、健康経営の実現に欠かせない
プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムとは何か、
それらを改善するには何が必要なのかを解説します。

従業員の体調が生産性に影響する
プレゼンティーイズム・アブセンティーイズムとは

企業経営において利益向上に直結する重要な指標の一つが、労働生産性です。毎日始業時間に従業員が出社し、所定労働時間通りに仕事をする職場の生産性が必ずしも高いとは限りません。一見、従業員が一生懸命働いているように見えても、そこには生産性を下げる要因が存在していることもあります。その一つは、従業員の心身両面の健康問題です。WHO(世界保健機関)は健康問題に起因した従業員のパフォーマンスの損失を表す指標として、「プレゼンティーイズム」と「アブセンティーイズム」を提唱しています(本連載vol.1参照)。それぞれ見ていきましょう。

プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムは、下記のような状態をいいます。これは従業員が健康で働ける状態から、出社できない状態に至るまでの段階とみることもできます。

プレゼンティーイズム・アブセンティーイズムとは

例えば、アブセンティーイズム(欠勤)の従業員が増えると、職場は人員不足により生産性が下がるでしょう。それに対して、プレゼンティーイズム(出社)では職場に従業員がいるため一見問題がないように見えますが、心身の不調で能力を最大限発揮することができなければ、生産性は低下していきます。

アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムには、体と心、両方の側面があります。例えば、運動不足やバランスの偏った食生活、過重労働による疲労など、体の健康を害する要素が常態化した職場環境では、日本人の三大疾病である、がん・心臓病・脳卒中などによるアブセンティーイズムのリスクが高まるでしょう。

また、人間関係によるストレスや、発達障害をはじめとする特性に対する周囲の理解不足などで心理的な健康を損なう職場では、メンタルヘルスの不調によるプレゼンティーイズムを経て、より深刻な事態に発展する恐れもあります。そして、いくら業績を上げるためとはいえ、過度なプレッシャーや過剰な仕事量、長時間労働の常態化は、脳・心臓疾患やうつ病など、従業員の心身双方に深刻な影響を与える可能性があります。

目に見えにくいプレゼンティーイズムと
どう向き合えばいい?

出勤できずまったく働くことができないアブセンティーイズムと異なり、従業員が職場にいるプレゼンティーイズムは、生産性の低下が見えにくくなっているといえます。プレゼンティーイズムの原因は多岐にわたるため、従業員の体調などの変化に気づく細やかな視点と対処が経営者や管理者には求められます。

例えば、年々患者数が増加し、日本人の約4割超が該当するといわれる花粉症もプレゼンティーイズムの原因の一つです。 目のかゆみや鼻水、鼻づまりといった症状は、仕事のパフォーマンスを低下させます。従業員1人当たり、あるいは職場全体の1日当たりの損失は少ないかもしれませんが、花粉症の時期はその状態が毎日継続します。花粉症に悩む従業員の数を企業全体で考えれば、損失は意外に少なくないことに気づくでしょう。

長時間のデスクワークにつきものの腰痛や、頭痛を引き起こす眼精疲労も、花粉症と同様にプレゼンティーイズムの原因となっています。花粉症の症状を改善させる空気清浄機の導入や、体に負担が少ない什器、目の酷使を減らす休憩時間の設定など、企業としてすぐに取り組める工夫はたくさんあります。このように、職場環境を整備することで、プレゼンティーイズムの予防や解消が期待できます。

他方、プレゼンティーイズムの原因には、うつ病をはじめとしたメンタルヘルスの不調もあります。従業員のメンタルヘルスを守る上で有効なのは、産業医による面談です。表面上問題がなくとも、従業員に定期的な面談を設けることで問題の早期発見と早期解決につながります。

近年、仕事での強いストレスによる精神障害に対する労災請求件数は増加傾向にあり、その原因の一つに上司との人間関係が挙げられます。また、労働経済白書(2018年)によると、残念ながら日本では、「自分は得意な仕事をしている」と感じている人の割合は約3割にとどまります。人は自分の能力を生かせる仕事に就いたときに、意欲と生産性が高まります。経営者や管理者、人事担当者が従業員1人ひとりの個性や特性を深く理解し、それらが生きる仕事に就かせることは、従業員のメンタルヘルスの健康を維持します。

問題がはっきりしているアブセンティーイズムだけでなく、従業員の健康問題が見えにくいプレゼンティーイズムにも同様に注意を払うことが、従業員の健康を守り、労働生産性の向上への道をつくっていきます。

企業の業績がよいときこそ、
プレゼンティーイズムを改善する投資をしよう

少子高齢化で生産年齢人口が減少しつつある日本では、このプレゼンティーイズムの改善が今後さらに注目されていくことでしょう。政府も生産性と健康が密接に関係しているという観点から、企業に花粉症対策や睡眠、運動を通じた健康の増進を促すことで、日本経済の発展につなげる道を模索し始めています。

企業の中には、業績が好調でも従業員に元気がないケースが時折見受けられます。経営者は「うちは業績がいいから、何もしなくても問題ない」とつい考えがちですが、業績がよいときこそ、未来を見据えて従業員の健康に投資することが肝要です。

現在、採用している従業員が将来どんな人財になるか、どんな成果を挙げるかはまだ分かりませんが、企業の財産である従業員に投資をすれば、大きな利益となって返ってくるでしょう。さらに、従業員の健康を真剣に考える管理者の育成は、健康経営を実践する経営者のメッセージを社内に行き渡らせるはずです。こうした取り組みは、会社が成長していく足元をしっかりと固め、生産性の向上に寄与し、将来、企業に新たな価値をもたらすことでしょう。

富士フイルムグループの取り組み

富士フイルムグループは、企業理念に「健康増進に貢献し、人々の生活の質のさらなる向上に寄与する」ことを掲げています。この理念を実現するための、2030年をターゲットとした中長期CSR計画では、重点課題の一つが「健康」であり、ヘルスケア事業を通じて「健康的な社会をつくる」ことに取り組んでいます。
そして、企業理念、目指す姿(ビジョン)を実践するための基盤となる、従業員の健康維持増進を重要な経営課題として捉え、2019年には「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定しました。グループ全体の従業員の健康増進に対する取り組みを加速させており、社会、会社、事業が共に成長していくことを目指して、健康長寿社会の実現に貢献していきます。

PROFILE

岡田 邦夫
岡田 邦夫おかだ・くにお
NPO法人健康経営研究会理事長。大阪市立大学医学部卒業後、大阪ガス産業医。その後、健康経営研究会を設立し、理事長に就任し、健康経営についてさまざまな形で啓発活動を行っている。厚生労働省、文部科学省のメンタルへルスに関する委員、経済産業省次世代ヘルスケア産業協議会健康投資ワーキンググループ委員などを歴任。著書に『「健康経営」推進ガイドブック』、『職場の健康がみえる』(監修)ほか多数。

記事公開:2024年1月
情報は公開時点のものです

* 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。