見直され始めた日本旅館のよさ
企業努力で需要を喚起
訪日観光客の増加とともに、長く宿泊需要が低迷していた日本旅館が息を吹き返しています。ホテルでは味わえないおもてなしや、ゆったりとくつろげる温泉、おいしい和食、畳の上に敷いたふとんに寝ることなど、外国人にとっては、どれもエキゾチックで興味深い体験ばかり。人気の高い旅館は、訪日観光客の予約で常に満杯だといいます。
国内旅行客への目配せも怠りません。近ごろは、客室ごとに小さな露天風呂を備えている旅館や、ふとんではなく、和室用ベッドで寝るスタイルも珍しくなくなりました。古きよき旅館サービスの伝統は継承しつつ、「ゆっくりプライベートを楽しみたい」という今どきのニーズや、西洋式のライフスタイルにうまく対応することで、より多くの客を呼び込もうとしている旅館経営者の苦労がしのばれます。
とはいえ、すべての旅館がこのように斬新なイメージチェンジを図れるわけではありません。長く苦しい不況が続いたせいで「リノベーションはしたいけれど、お金がない」という旅館や、後継者がおらず、高齢化した経営者が存続をあきらめているなど、老朽化した建物をそのまま使わざるを得ない状況です。当然ながら顧客を呼び込むのは難しく、苦しい経営を余儀なくされ続けることになります。
しかし、そんな不利な状況にもかかわらず、リピート客をコンスタントに呼び集めている古い旅館があります。個室露天風呂や、インスタ映えする食事といった若者受けする工夫を凝らしているわけでもなく、古い建物も改装できず、昔ながらの大宴会用の大広間のままにもかかわらず、なぜか一部の人たちに絶大な人気を集めているのです。
さて、この旅館はどのような方法で集客に成功したのでしょうか?
答えは、「大宴会用の大広間を、そのまま、鉄道模型マニアたちに開放する」という方法です。
鉄道模型マニアは、広い部屋いっぱいにレールを敷き詰めて、自分の模型を思う存分走らせたいという夢を持っています。大宴会用に作られた大広間は、その夢をかなえるのに願ってもない広さなのです。しかも本来は宴会用ですから、ドンチャン騒ぎをしても周囲に迷惑がかからない場所に設けられているものなので、夜中まで模型を走らせられます。畳も敷かれているので、寝そべりながら模型が走るのを眺めることができますし、眠たくなったらそのまま寝てもいい。鉄道模型マニアにとっては、まさに天国のような場所だといえます。
旅館の大広間は「宴会のため」のものであり、それを利用するのは「団体客」だろうと、私たちは思い込みがちです。しかし、限定的な用途にとらわれず「こんな使い方もできそうだ」と発想すれば、思いも寄らなかった新しい顧客を呼び込むこともできるわけです。