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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

さびれた旅館に、意外なリピーターが。
発想の転換が生んだユーザーを離さない人気サービスとは?

vol.8

見直され始めた日本旅館のよさ
企業努力で需要を喚起

訪日観光客の増加とともに、長く宿泊需要が低迷していた日本旅館が息を吹き返しています。ホテルでは味わえないおもてなしや、ゆったりとくつろげる温泉、おいしい和食、畳の上に敷いたふとんに寝ることなど、外国人にとっては、どれもエキゾチックで興味深い体験ばかり。人気の高い旅館は、訪日観光客の予約で常に満杯だといいます。

国内旅行客への目配せも怠りません。近ごろは、客室ごとに小さな露天風呂を備えている旅館や、ふとんではなく、和室用ベッドで寝るスタイルも珍しくなくなりました。古きよき旅館サービスの伝統は継承しつつ、「ゆっくりプライベートを楽しみたい」という今どきのニーズや、西洋式のライフスタイルにうまく対応することで、より多くの客を呼び込もうとしている旅館経営者の苦労がしのばれます。

とはいえ、すべての旅館がこのように斬新なイメージチェンジを図れるわけではありません。長く苦しい不況が続いたせいで「リノベーションはしたいけれど、お金がない」という旅館や、後継者がおらず、高齢化した経営者が存続をあきらめているなど、老朽化した建物をそのまま使わざるを得ない状況です。当然ながら顧客を呼び込むのは難しく、苦しい経営を余儀なくされ続けることになります。

しかし、そんな不利な状況にもかかわらず、リピート客をコンスタントに呼び集めている古い旅館があります。個室露天風呂や、インスタ映えする食事といった若者受けする工夫を凝らしているわけでもなく、古い建物も改装できず、昔ながらの大宴会用の大広間のままにもかかわらず、なぜか一部の人たちに絶大な人気を集めているのです。

さて、この旅館はどのような方法で集客に成功したのでしょうか?
答えは、「大宴会用の大広間を、そのまま、鉄道模型マニアたちに開放する」という方法です。

鉄道模型マニアは、広い部屋いっぱいにレールを敷き詰めて、自分の模型を思う存分走らせたいという夢を持っています。大宴会用に作られた大広間は、その夢をかなえるのに願ってもない広さなのです。しかも本来は宴会用ですから、ドンチャン騒ぎをしても周囲に迷惑がかからない場所に設けられているものなので、夜中まで模型を走らせられます。畳も敷かれているので、寝そべりながら模型が走るのを眺めることができますし、眠たくなったらそのまま寝てもいい。鉄道模型マニアにとっては、まさに天国のような場所だといえます。

旅館の大広間は「宴会のため」のものであり、それを利用するのは「団体客」だろうと、私たちは思い込みがちです。しかし、限定的な用途にとらわれず「こんな使い方もできそうだ」と発想すれば、思いも寄らなかった新しい顧客を呼び込むこともできるわけです。

鉄道模型が思う存分走らせられる! 旅館の宴会用大広間がマニア垂涎の空間に

物事の本質を理解すれば
お金をかけずに成功できる

前回の連載(vol.7 なぜ安い? ドラッグストアで売られるカップ麺 スーパーよりもおトクな値段の理由とは……)で、物事の“本質”をとらえられれば、“新しい基準”を創り出すことができるというお話をしました。この旅館の事例も、大広間は宴会用としてだけでなく、ほかの用途にも使えるという本質にたどり着いたからこそ、鉄道模型マニアに提供するという新しい基準が生み出せたのだといえます。

この事例には、もうひとつ大きなヒントがあります。それは、リノベーションに一切お金をかけることなく、昔からある大広間を、そのまま“新しい使い方”のために提供したことです。さらに、もともと古い旅館ですから、それを逆手に取ってタイムスリップや、ノスタルジーを感じるスポットとしてもアピールできます。わざわざテーマパークを作るまでもなく、古い旅館は、むしろ、古いからこそいいのです。実際、コスプレマニアの絶好の撮影スポットとして人気になった例もあります。

旅館に限らず、お金がないから「リノベーションができない」とか、負の遺産があるから「新しい事業が始められない」という経営者の方々にとっても、あきらめる前に一考の価値があるでしょう。このように本来の用途を限定せず、ずらすことで新しい基準が見つかるのです。

“ひらめき力”のポイント
本来の用途をずらして
“新しい基準”を見つけ出せば、
今ある資産や事業を、そのままに再生できる

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2018年1月