携帯電話やパソコンをはじめ、私たちの生活は多くの電子機器によって
支えられています。通信時の電波のほか、それら電子機器からは電磁波も
発せられています。その電波や電磁波※1が干渉して、電子機器が
不具合を起こさないために必要となるのが「EMC」です。
今回は、現代社会にとって不可欠なEMCについて解説します。
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今後の人類社会の発展と
切り離すことができないEMCとは。
電子機器同士の電磁波による干渉は、人命に関わる事態にもつながりかねない
私たちの身の回りのあらゆる電子機器は、電磁波を発しており、それらが干渉することで不具合が生じることがあります。携帯電話で話している時に雑音が混ざったり、音声が途切れたりして会話しにくくなった経験は、誰もがあるはず。これは電磁波による干渉の顕著な例です。他にも、テレビの映像が乱れたり、ラジオに雑音が入ったりするのは、他の電子機器の電磁波が干渉している場合があります。この程度であれば少しの不便で済みますが、過去には、着陸態勢に入った旅客機が、機内の携帯音楽プレーヤー※2の使用で一時的に制御を失うといった、人命に関わるような深刻なトラブルも起きています。
EMCとは「electromagnetic compatibility」の略で、直訳すると「電磁両立性」。電子機器が、他の電子機器に影響を与えないようにしたり、他の電子機器からの影響を受けたりしないようにして、お互いが不具合を起こすことなく共存できるようにするのがEMCなのです。近年、家庭用、業務用共にさまざまな機器にコンピューターが搭載されるようになり、無線通信機能をはじめとする電波の使用も拡大。電磁波による干渉の可能性が増加しており、EMCがより重要になっています。
※1 電波は電磁波の一種で、3THz(テラヘルツ)以下の電磁波が電波と呼ばれています。本稿では、以下電波も含めて電磁波と記載します。
※2 航空機内における電子機器使用の制限は2014年9月1日以降、緩和されています。
EMCの実現には、使用環境に応じて電子機器が発する電磁波を減らし、電子機器の電磁波への耐性を上げる必要がある
EMCを実現するためには、前述のように他の電子機器に影響を与えないようにすることと、他の電子機器の影響を受けないようにすることという、2つの側面が求められます。電子機器が発する電磁波による妨害のことを「エミッション(emission)」といいます。これは「EMI(electromagnetic interference=電磁妨害)」と呼ばれることもあります。一方、妨害の受けにくさを「イミュニティ(immunity)」といい、妨害の受けやすさを示す「EMS(electromagnetic susceptibility=電磁感受性)」や、「サセプティビリティ(susceptibility)」という言葉が使われることもあります。
EMCとEMI、EMSの関係
電磁波による電子機器の不具合は、他の電子機器が発する電磁波による強さが、その電子機器の電磁波に対する耐性を上回った時に起こります。しかし、1つの電子機器が受ける電磁波の妨害は、周囲の電子機器の数などの環境によって変わり、常に一定とは限りません。そのため電磁波に対する耐性に関しても、全ての電子機器に共通する基準を設けることは困難です。そこで「EMC測定」という、電子機器が発する電磁波の強さや電磁波に対する耐性の強さを調べ、「このレベルなら、この環境での使用は問題ない」、あるいは「この環境で使用するには、より高いイミュニティ・レベルが必要」といったことを教えてくれるサービスもあります。
放射性と伝導性
社会の進歩・発展とEMCは表裏一体! 今後さらにその重要性が高まっていく
現在、急速に普及が進むIoTは、私たちの日常生活をより便利にするだけでなく、産業分野での活用も大いに期待されています。また、自動車メーカー各社は、電気自動車でワイヤレス電力伝送技術を活用した非接触充電の実用化を目指しています。加えて激しい開発競争が繰り広げられている自動運転システムに関しても、車車間通信などが無線で行われます。
近い将来、私たちを取り巻くあらゆる機器がコンピューター化され、無線有線を問わずつながるようになります。しかし、もしその中の機器の1つがEMCを達成していないと、不具合を起こした時に全く別の場所にある機器にまで、悪影響を及ぼす可能性があります。場合によっては、多くの生命に関わるようなことにも……。今後の社会の進歩・発展とEMCの達成は、表裏一体といっても過言ではありません。その重要性は、社会が進化するスピードが上がるにつれて、ますます高まることになるはずです。
国や業界ごとにエミッションの規制があり、日本では電波法や電気用品安全法を適用
EMSに関して、全ての電子機器に共通する基準を示すのは難しいと前述しましたが、もちろん規制が何もないわけではありません。エミッションやイミュニティに関する国際規格があり、国や業界ごとの規制もあります。エミッションの国際規格では、工業や科学、医療用無線周波機器に関する「CISPR 11」や、音声やテレビとその関連機器を対象にした「CISPR 13」などがあります。一方、イミュニティは、家庭用機器や電動工具と類似の器具に関する「CISPR 14-2」や、情報技術機器に関する「CISPR 24」などが代表的な国際規格です。
また、日本の電波法では、規定された最大の放射強度よりも強い電磁波を、無許可で放射することはできません。一部の電子機器に関しては、電気用品安全法によっても規制されています。電気用品安全法の対象外となるパソコンは、国内で販売を行う大手パソコンメーカーの多くが「VCCI協会(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)」の規定にのっとり、自主的にエミッションを規制しています。
同様に、アメリカの「FCC規制」や欧州連合(EU)の「EMC指令」も、電子機器からのエミッションを規制しています。規制内容は国や地域、機器の種類によっても異なるため、電子機器を輸出する場合はそれぞれの国や地域の該当する規定内であることが最低条件になります。
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記事公開:2019年3月
情報は公開時点のものです