テレワークが一般化しつつあるいま、クラウドは企業活動に欠かせない
インフラといっても過言ではありません。しかし、そんななかで、
「オンプレミス」を見直す流れも生まれています。
そこで、今回は情報システムの進化を振り返りながら、
「オンプレミス」のそもそもの定義、そしてその再評価の理由を探ります。
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なぜ「オンプレミス」に再評価の波が?
ハイブリッド化する情報システムの最前線。
集中と分散を行き来しながら
進化を続けた情報システム
情報システムは主に企業活動の効率化を目的として進化してきました。この記事では、コンピュータと周辺機器などのハードウエア、ソフトウエアから通信ネットワークまでを含む「情報の処理・伝送を目的としたシステム」を情報システムの定義とします。
初期の情報システムが形成されたとされるのは1950年代後半。それまでコンピュータが単体で行っていた処理をオンラインで統合処理するIDP(Integrated Data Processing)への移行が進みました。さらに、1960年の半ばには、集積回路(IC)を搭載した汎用機(メインフレーム)という高機能なコンピュータが登場。巨大な汎用機に操作用の端末をつないだシンプルな構成で、データの処理も保管も1台の大型汎用機が担う集中コンピューティングの時代が到来しました。
やがて1980年代に入ると、処理能力が高く低価格なパソコンが急速に普及したことにより、情報システムはクライアント/サーバ型が主流になります。これは、機能や情報を提供するサーバと利用者が操作するクライアントを分けて相互にネットワークで接続する分散コンピューティングです。ただし、この時代の一般的なネットワークはLAN (Local Area Network)であり、企業の事業所内など限定されたエリアでのみ利用可能なものでした。1990年代にメインフレームの出荷台数が減少し続けたのに対し、サーバの出荷台数が増加したことが、情報システムの変遷を物語っています。
そして、1990年代後半にインターネットが一般に広く普及したことがクラウドの誕生につながり、情報システムに大きな変化をもたらすことになります。下の図が示すように、情報システムは集中と分散を繰り返しながら進化してきたのです。
クラウドが覇者となったことで
「オンプレミス」が生まれた!?
クラウド※1とは、サーバにあるデータやソフトウエア、ストレージ、情報システムの開発・運用基盤などをインターネットで提供するサービス形態のことです。場所や時間、デバイスの制約を受けることなく利用できるため、企業活動だけでなく日常生活にも欠かせないサービスになっています。
企業がクライアント/サーバ型の情報システムからクラウドに移行した理由は、イニシャルコストを低く抑えられることに加えて、パッケージのソフトウエアを自社のコンピュータにインストールする必要がないなどのメリットによるものです。
さらに、急速に進むIoTとビッグデータの活用を経営戦略に織り込むためでもありました。自動車や家電、工場の製造設備など、あらゆるものがネットワークにつながると、それらのIoT製品から生成されるデータ量は膨大なものになります。
企業がそれをビッグデータとして活用するためには、増大するデータを遅延なく処理・保管しなければならず、自社サーバで対応するにはコストがかさみます。その点、クラウドなら大きな投資をせずとも必要なシステムの拡張が自由にしやすいため、多くの企業がデータ管理プラットホームとして導入しました。
こうしてクラウドが情報システムの主流になったことで、既存のシステムを指す言葉として一般的になったのが「オンプレミス(on-premises)」です。 premisesとは建物や構内のこと。「オンプレミス」はクライアント/サーバ時代に一般的だった、自社でサーバを所有・構築・運用する情報システムの形態です。「自社運用」と呼ばれることもあります。
しかし、「オンプレミス」は忘れ去られてしまったわけではありません。いま再び注目され、再評価の機運が高まっています。
※1 クラウドサービスは一般的なパブリッククラウドと自社専用で利用するプライベートクラウドに分かれていますが、この記事におけるクラウドはパブリッククラウドを意味しています。
安全で効率的なDX推進のために
「オンプレミス」とクラウドを融合
イニシャルコストの低さやシステム導入の速さ、保守・運用の負荷軽減など、さまざまなメリットで選ばれているクラウド。その一方で、自社のシステムを全面的にクラウドに委ねることは「クラウドロックイン」というリスクの原因になります。また、システムをカスタマイズしたり、セキュリティレベルを確保したりすることがより難しくなるというデメリットや、クラウドに預けていたデータが大容量になると移動に想定以上のコストがかさんでしまうといったリスクも潜んでいます。
セキュリティに関しては、クラウドは開かれたネットワークで多くのユーザーが利用しているため、予想外の脆弱性が事故の原因になる可能性が否定できません。特にいま、コロナ禍でテレワークが浸透したことにより、企業の情報システムはフィッシングメールによるマルウエア感染やアクセス権限の不備による情報漏えいなどのリスクにさらされています。クラウドサービスに対する不正アクセスも増加傾向にあり、クラウド上のデータの安全性に不安を抱く企業も少なくありません。
また、大手クラウドベンダーの多くが米国企業であることもクラウドを利用するリスクになり得ます。クラウド上で保管しているデータにも米国の法律が適用されることがあるのです。日本の企業が保管しているデータでも、情報開示などの要請には従わなければなりません。企業としてのガバナンスにも影響する可能性があります。
このような背景から、安全かつ効率的な情報システムの実現を目指す企業が注目しているのが、「オンプレミス」とクラウドを融合して双方の強みを生かす「ハイブリッドクラウド※2」です。機密性の高い顧客情報、機密文書、自社のコアコンピタンスに関わる技術や知見を含む重要なデータは「オンプレミス」に保管し、機密性の低いデータはクラウドで運用することにより、セキュリティとコストを最適化できるのが大きなメリット。
「オンプレミス」に保管した重要なデータは漏えいを防げるうえに、オフラインで使用することも可能になり、BCPにも貢献できます。既に大手のクラウドベンダーもハイブリッドクラウドをサービスとして提供していることからも、システムの一部を「オンプレミス」に回帰する潮流は続きそうです。
近年では「オンプレミス」のデータ保管に磁気テープが活用されるなど、過去の技術が復権しています。情報システムを最適化して、テレワーク対応を含むDXを推進するためにも「クラウド」そして「オンプレミス」の特徴を理解し、使い分ける重要性が増しています。
※2 パブリッククラウドとプライベートクラウドを併用したシステムや、それに「オンプレミス」の3つを組み合わせたシステムもハイブリッドクラウドと呼ばれる場合があります。
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記事公開:2021年10月
情報は公開時点のものです