植物の光合成や炭素循環など、地球上の生命にとって重要な役割を果たして
いる二酸化炭素(CO2)。しかし、近年は気候変動要因の筆頭に挙げられ、
悪者扱いされがちです。そんなCO2の汚名返上となるかもしれない技術が
「CCS/CCUS」です。CCS/CCUSは、気候変動に関するパリ協定の目標を達成する
ために必要不可欠であるとともに、炭素循環型のカーボンニュートラル社会の
実現可能性を高めるものとして期待されています。今回はCCS/CCUSとは何か、
どんなメリットをもたらすのかについて、解説しましょう。
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“厄介者”の二酸化炭素が新たな資源に!?
「CCS/CCUS」とは。
CO2を捕捉・貯留する「CCS」
そのCO2を利用する「CCUS」
酷暑、干ばつ、熱波による森林火事、大雨と洪水、大嵐や大雪、海面上昇……。極端な気候変動は年々進行し、深刻な影響が世界中で報告されています。より危機的な状況を防ぐために、世界の平均気温上昇を基準年(1850~1900年)の2℃未満(理想的には1.5℃未満)に抑えることが、2016年11月に発効した「パリ協定」で合意されました。また、2018年10月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書「1.5℃の地球温暖化」では、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする必要があるとしています。「CCS/CCUS」はこれらの目標達成に欠かせない技術だと考えられています。
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、発電所や工場などで発生したCO2や大気中のCO2を分離・回収し、地中に貯留する技術を指します。1990年代初め頃から国際的な研究が始まり、1992年には初めてCO2回収に関する国際会議が開かれ、日本も参加しました。1996年にはノルウェーのSleipnerガス田で世界初の商業規模のCCSプロジェクトがスタートし、年間約100万トンのCO2を海底に貯留。2008年の北海道洞爺湖サミットでは、CCS技術が温室効果ガス排出削減の重要な手段の一つとして認識されました。これは再生可能エネルギーの導入やエネルギーの効率化などの脱炭素対策とは異なり、CO2の排出を根本的に抑制できることが大きな特徴です。
一方、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は、CCSのプロセスに加え、回収したCO2を化学製品や燃料の製造に有効利用し、経済価値のある資源として活用するための技術です。CO2利用技術の進展により経済的な利益を生み出す可能性もあることから、注目が集まっています。日本も2019年のダボス会議で、CCUSを「環境と経済成長の好循環」を実現するイノベーションと捉え、CO2を炭素資源として再利用する「カーボンリサイクル」の推進をスタート。カーボンリサイクルは2020年に策定された「革新的環境イノベーション戦略」の重点領域の一つとなり、CCUSはその実現に欠かせない技術の一つとみなされています。
回収と利用の両輪で
排出量を削減
CCS/CCUSのプロセスは、まず大気中や排出ガス中のCO2を捕捉することから始まります。 とはいうものの、CO2は気体であり、他の気体と混ざり合っています。このため、主に次の方法が利用されています。
- ●燃焼後回収
- 化石燃料を燃焼した後の排出ガスや大気からCO2を分離する方法です。すでにある発電所や工場に比較的容易に導入できるため、最も一般的に使用されています。例えば排出ガスから回収する場合は、低温ではCO2を多く吸収し、高温ではCO2を放出する溶剤を用いて化学的にCO2を吸収します。
- ●燃焼前回収
- 燃料を燃焼させる前にCO2を分離する方法です。例えば、水蒸気で天然ガスの性質を変えたり、石炭を化学処理したりなどしてCO2と水素を分離。CO2は回収され、水素は燃料として利用されます。
- ●酸素燃焼回収
- 酸素燃焼プロセスでは、燃料の燃焼のために空気から分離させた酸素を使用します。高濃度の酸素を用いて燃焼させると、排出ガス中のCO2濃度が高くなり、CO2を効率的に回収できます。
そして、CCUSの要の一つが、回収したCO2の利用技術です。CO2の利用は「直接利用」と「カーボンリサイクル」の2つに大きく分けられます。
- ●直接利用
- 例えばドライアイスの製造や、高濃度CO2の供給などがあります。高濃度CO2は植物の生育に適しているため、農業用ビニールハウスでの野菜や果実の収穫量の増加を実現します。
- ●カーボンリサイクル
- さまざまな物質の原材料としてCO2を利用します。例えば、石油由来の原料を使わずにプラスチックやポリウレタンなどの化学品をつくったり、CO2を水素と反応させた合成ガスや、バイオ燃料、合成メタンなどのガス燃料もつくったりできます。また、CO2を鉱物と反応させてコンクリート製品をつくることもできます。
CO2利用について、日本でも具体的にさまざまな技術開発や技術実証が進められています。中でも注目されているのが、「人工光合成」です。その取り組みは2000年代にスタートし、CO2と水、太陽光だけで、一酸化炭素(CO)や水素などをつくり出す実証に成功。世界トップクラスの太陽光変換効率(照射された太陽光エネルギーのうち有機物に蓄えられるエネルギーの割合)である10%を目指す取り組みも進められています。
また、清掃工場の排出ガスから分離回収したCO2と水素を反応させ、天然ガスの主成分であり、発電などの燃料として利用できるメタンを製造(メタネーション)する技術実証も行われています。清掃工場は廃棄物の最終的な受け皿であり、重要な基幹インフラです。その清掃工場の排ガスでメタンを製造することには大きな有用性があります。この実証実験では商用規模のメタネーションが可能だと確認され、将来は地域の清掃車やバスなどのエコ燃料として利用することも期待されています。
CO2からエタノールをつくる実証実験も進められています。金属触媒を用いた反応によってCO2をCOに変換して水素を加え、微生物触媒で発酵させてエタノールをつくり出します。エタノールはプラスチックや樹脂など多様な化学品の材料となり、石油由来製品の削減につながります。
期限は2050年
世界で必要なCO2回収量は年間76億トン!?
CO2の排出を削減できるばかりか、CO2を有用な資源としても利用できるCCS/CCUS。炭素循環型のカーボンニュートラル社会実現の可能性を高め、気候変動の悲観的なシナリオを回避する切り札として期待は高まりますが、最大の課題は「果たして間に合うのか?」ということです。
2023年7月時点で、世界で41のCCS施設が操業中で、1年間に4,900万トンのCO2を回収・貯留する能力を有しています。また、26施設が建設中で、326施設が計画段階にあります。2017年以降、CCSプロジェクトの開発数は年率35%以上の成長率を示し、今後も施設は増えていくものと考えられます。
ただし、2050年に世界のCO2排出量を実質的にゼロにするためには、2050年時点で年間76億トンのCO2回収が必要になるという試算があります。しかし、今のところ、各国ですでに取り組んでいる政策に公約段階の気候変動政策を含めても、年間38億トンの回収にとどまっています。
一方で、CCUSによるCO2排出削減の潜在能力は70億~130億トン程度にも達するといわれ、これは2018年時点における世界のエネルギー由来CO2排出量の2~4割にも相当します。この潜在能力を最大限に実現するためには、さらなる技術の進展や、商用化のための大幅なコスト削減、安全面を含む社会全体の理解の醸成・浸透、事業関係者間の法整備などが必要となります。
私たちの未来は、さまざまな課題を乗り越えて期限までに目標に向けた実績を積み上げられるかどうかにかかっているのかもしれません。一刻も早い社会実装が待ち望まれます。
「CCS/CCUS」に関連する富士フイルムの製品・技術
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- ガス分離膜
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記事公開:2024年6月
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