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仕事がうまくいく「話し方」のコツ

ビジネスシーンで役立つ話し方のコツをケース別にご紹介します。

vol.9 自分の評価を高める、
良いスピーチ方法とは?

スピーチに求められるのはムード作り

社会人としてキャリアを積みポジションが上がるにつれ、さまざまな場面で「一言ごあいさつを」とスピーチを求められる機会が増えます。事業部内や全社規模の会議、業界団体の会合、後輩や部下の結婚式など、スピーチが必要なシーンは多種多様。ところが、「スピーチは苦手」という人は、少なくありません。しかし、多くの人を前に堂々と良いスピーチができれば、自分の評価を高めることにつながります。つまりスピーチを聞く人が多ければ多いほど、自分の評価を高める絶好のチャンスなのです。そこで今回は、良いスピーチをするために覚えておきたいポイントを紹介します。

広義のスピーチにはプレゼンテーションなども含まれますが、会合やイベントの冒頭と締めで行われるスピーチは「テーブル(ムード)スピーチ」と呼ばれます。その目的はたった一つ。ムード作りです。冒頭のスピーチは、参加者のモチベーションを高めたり、会場の雰囲気を盛り上げたりすることが狙いになります。一方、締めのスピーチは、その会合が成功したと印象付けることができれば良いのです。良いムードを作ることができれば、それは良いスピーチだと考えて間違いありません。スピーチの大前提は、会場内のムードを高めることだ、ということを押さえておきましょう。

慣れるまで事前に考えておくのは一言だけ

スピーチをする際、話す内容を一字一句まで書き記した原稿を読んだり、それを丸暗記したりすることに力を入れている人を見かけます。そのような人は、ほとんどが棒読みのような淡々とした話し方になってしまい、会場の雰囲気は盛り上がりません。スピーチには、もちろん準備が必要です。しかし、テーブルスピーチに慣れていない人が、事前にしっかりと準備をすると、かえって緊張を高める要因になってしまいます。
この場合、テーブルスピーチでは、必ずしも講演やプレゼンテーションのような練りに練った原稿を用意する必要はないと考えてみても良いかもしれません。テーブルスピーチが苦手な人は、一言でも構わないので「これだけは話そう」ということを決めておきましょう。仮にスピーチが短くなったとしても、その一言で会場を盛り上げることができれば成功です。

自己紹介のパターンを複数用意する

テーブルスピーチの時間は、2分前後が一般的。2分前後で話せる内容は、文字にすると500~550字程度。その中で、まず必要になるのが自己紹介です。スピーチに慣れてきたら、自己紹介をしっかりと考えることから始めましょう。うまい自己紹介は、聞き手の心をつかんで、自分を印象付けることができます。いくつかのパターンを用意して、会合に合わせて使い分けられれば、毎回あわてて話す内容を決める必要がなくなります。

自己紹介を考えるときのポイントは、簡潔で「オリジナリティ」があること。自分が主役の会合以外で長々と自己紹介をすると、聞き手は興ざめしてしまいます。また、誰にでもあてはまるような自己紹介も、自分を印象付けることはできません。事実に基づいた自分ならではのエピソードを盛り込むことで、自分がどのような人間なのかが聞き手に生き生きと伝わるのです。

結びの言葉につながる話が良いスピーチの鍵

逆にテーブルスピーチの結びは、会合のムードを高める内容であれば、典型的なもので構いません。会議の冒頭であれば「活発な議論を期待します」、業界団体の会合なら「これを機に交流を深めましょう」といった言葉で十分です。締めのスピーチのときは「本日は良い会になりました。今後に生かしましょう」などが考えられます。
あとは、自己紹介から結びの言葉につながる間の話を、会合ごとに用意しておきましょう。自己紹介と結びの言葉の間の話を用意するときは、自己紹介と同様、簡潔でオリジナリティがあることに加えて、2つのポイントに気を付けましょう。まずユーモアとウイットです。ユーモアとウイットによって笑いを取ることで、聞き手をリラックスさせることができるため、会合での会話を円滑にするのにとても有効です(vol.6参照)。
2つ目は品位です。懇親会などの交流を深める会合であったとしても、やはりビジネスの場で下品な話は避けるべきです。まして“あいさつ”として大勢の前でスピーチをするわけですから、たとえほとんどの人が笑ったとしても、不快に感じる人がいるかもしれません。自分の評価を上げるチャンスのはずが、逆に「非常識な人間だ」と人格を疑われることになります。

テーブルスピーチを成功させるポイント

また、テーブルスピーチでは口調が固くなりがちですが、実は一人に語りかけるように会話調で話した方が効果的です。そうすることで、聞き手との心の距離がグッと近くなります。さらに、その場で考えて話しているように聞こえるので、より話が上手な人だと聞き手に思わせることもできます。会話調で話すことは、自分が落ち着いていないと難しいため、相応の経験が必要な上級テクニックです。

良いスピーチは、聞き手に良い印象を与えながら、自己紹介から結びの言葉へ自然な流れでつながります。それは、一朝一夕には身に付けることはできません。一言の短いスピーチで会場を盛り上げる小さな成功体験を積み重ね、自分の中の引き出しを増やすことによって、少しずつ上達していくのです。上記のポイントを踏まえて、取り引き先や部下から一目置かれるスピーチの達人を目指しましょう。

PROFILE

永田 豊志
秋田 義一あきた・よしかず
一般社団法人話力総合研究所理事長。話し方、聴き方、ビジネスコミュニケーション、人間関係等に関する研修や講演を担当。また、話力インストラクターの教育指導にあたる。国士舘大学理工学部講師(非常勤)、産業能率大学マネジメントスクール講師。霞が関ナレッジスクェアアドバイザリメンバ。公益社団法人 日本技術士会 防災支援委員会 委員 兼 千葉県支部幹事。千葉県東葛テクノプラザ技術相談員などを歴任。

記事公開:2018年8月