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図解で思考整理

ビジネスマンが抱える悩みを、「図」にすることで解決します。

vol.34 自社に合う方向性を選択して
目指すべき企業戦略を見つける。

企業戦略の再確認に有効なフレームワーク

地球規模のコロナ禍は、多様な業界のビジネスに深刻な影響を与えており、その結果、全社を挙げて自社の事業戦略を見直す必要に迫られている企業は少なくないはずです。これまで戦略立案にかかわってこなかった人にも、戦略を考える機会ができているかもしれません。そんなときに使える、戦略方針の決定を助けるフレームワークの一つに「デルタモデル」があります。

デルタモデルは、「自社の強みを生かした戦略を立案したい」あるいは「目指すべき企業戦略を再確認したい」といったケースに有効な手法とされています。

企業戦略を3つの方向性に分類し、自社が取り得る戦略の方向性を検討できるようにするのが、このフレームワークの特徴です。

「商品力」「顧客満足度」「市場優位性」のどれに注力すべきか

デルタモデルでの3つの方向性は以下のような分け方です。

【ベストプロダクツ】=「商品力で勝ち抜く」
商品そのものの機能性、利便性やデザインといった目線で他社との差別化を図る戦略。開発力が高い企業や人気の商品を排他的に仕入れられる企業に有効です。製造の仕組みなどの工夫によってオペレーション効率を向上し、低コスト、低価格化を実現する取り組みもこの方向性のうちの一つ。こうした意味では格安航空会社(LCC)や100円ショップは、このタイプに当てはまるといえます。
【トータルカスタマー・ソリューション】=「顧客満足度を最優先する」
顧客の利益や満足度を重視する戦略。商品自体の競争力による差別化を期待できない場合、サービスやサポート対応などで他社とは異なる魅力の提供を狙います。重要となるのは、顧客ターゲティング。大型アミューズメント施設や、アマゾンなどに代表される統合型大規模ECサイトが、このタイプです。
【システムロックイン】=「市場優位性を創り出す」
自社製品あるいはブランドをデファクトスタンダード(業界標準)として確立させる戦略。自社製品に注文が入りやすく他社に発注しにくい流通システムを構築する必要があり、このタイプで重視すべきは、技術やビジネスモデルのイノベーション。マイクロソフトの「Windows」がこのタイプの典型例です。
デルタモデルによる3タイプの戦略方向性

現状に即した方向性を選択する

3タイプの戦略方向性を利益率の高さで見ると、「システムロックイン」が最も高く、その次が「トータルカスタマー・ソリューション」、3タイプで最も低いのが「ベストプロダクツ」です。

企業としては当然のことながら、儲けにつながる「システムロックイン」を選択できるならしたいところでしょうが、事はそう単純ではありません。「システムロックイン」の戦略が適しているのは、専門性が高くて新規参入が難しい業界であり、そうではない業界の場合、マイクロソフトのような業界標準を創出するのは至難の業といえるでしょう。

ただ、逆にコロナ禍で特殊な状況に置かれたからこそ、自社の狙うべき方向性がこれまでと変わっていて、場合によっては長期的に「システムロックイン」を狙える、というような可能性もゼロではないといえます。全ての可能性を見落とさないよう、「SWOT分析」 で自社を取り巻く環境を整理し、分析した結果をデルタモデルに落とし込んでいくと、より効果的です。

このフレームワークにおいて忘れてはならないのは、現状に即した方向性の選択によって、適切な戦略のもと、事業を安定化させる活動姿勢です。社会全体を襲った想定外の事態。「ピンチこそチャンス」と、いち早く再スタートを切る決意は、ビジネスの大きな推進力となるはずです。

PROFILE

永田 豊志
永田 豊志ながた・とよし
知的生産研究家、ショーケース代表取締役社長。九州大学卒。リクルートで新規事業開発を担当。その後、出版社や版権管理会社などを経て、ショーケース・ティービー(現ショーケース)を共同設立。図解思考、フレームワーク分析などビジネスパーソンの知的生産性研究にも取り組んでおり、国内外での執筆活動や講演でそのノウハウ普及を行う。

記事公開:2021年2月