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「一人歩きする資料」の作り方

対面やオンラインで説明をしなくても、読み手が内容を十分に理解できる
「一人歩きする資料」作成のためのテクニックや考え方を、元外資系コンサルタントが教えます。

vol.17

「見せ方」で伝達力に差をつける!
強調すべきポイントとは?
伝わる「グラフ」の大原則(2)

ちょっとした工夫で、グラフの分かりやすさは格段にアップする!

前回は、一人歩きする資料の表現方法として欠かせないグラフの適切な「選び方」を紹介しました。今回は、グラフの「見せ方」について説明します。

グラフは単にデータを入れて完成とするのではなく、見せ方にちょっとした工夫を加えることで、読み手にとって分かりやすく変身させることができます。グラフの見せ方で重要なのが、「データの絞り込みと順番」「強調」「整える」です。順番に見ていきましょう。

グラフでメッセージを伝えるときの1つ目のポイントは、不要なデータをなるべく省いて重要なデータに絞り、ルールに従って並べることです。

●グラフは「重要なデータ」に絞り込む
データの絞り方には、2つの方法があります。

(1)不要なデータを省く
前回紹介した、独立したデータを比較する「項目比較」や、データの時系列での変化を比較する「時系列比較」を行うときには、不要なデータは省いて、重要なデータだけグラフ化しましょう。例えば、時系列比較では推移が顕著な年度のみを示す(下図参照)、項目比較では数量の大きな項目のみを示すなど基準を設け、不要なデータを省きます。

(2)「その他」にまとめる
データの内訳を比較する「構成要素比較」の場合、重要度の低いデータを「その他」にまとめることで、重要なデータを見やすくすることができます。この場合も基準を決めておくことが大切です。

重要なデータに絞り込んだ例

●データは「大きさ」「重要度」「種類」の順に並べる
データの順番に注意するだけで、グラフは劇的に分かりやすくなります。これには3つの方法があります。

(1)大きさ順に並べる:大きいデータから配置する最も一般的な並べ方
(2)重要度順に並べる:重要なデータを最初に配置する、読み手に印象付けたいデータがある場合の並べ方
(3)種類でまとめる:同じ種類に整理する並べ方

グラフデータの並べ方

赤色の枠や円でグラフを強調するのはNG!? 美しく洗練された強調方法とは

グラフで表現する情報の中には、重要なものとそうでないものがあります。グラフの重要なデータを強調することで、文字を読まなくても、一目で読み手は内容を理解できるようになります。

●個別データは「色」と「矢印」で強調する
グラフの中の1つのデータを強調したい場合には、(1)「グラフの色を変更する」、(2)「矢印を使用する」という2つの方法があります。いずれの場合も、色は本連載vol.12で紹介したアクセントカラーを使用しましょう。

(1)グラフの色を変更する
グラフのデータを強調するために、楕円などで囲っている資料を見かけますが、見た目があまり美しくありません。この場合は、強調したいデータの色を変更しましょう。

(2)矢印を使用する
強調したい箇所を矢印で示すことで、見せたいデータを明確にすることができます。

●複数データは「背景」で強調する
複数のデータを強調する場合は、アクセントカラーで背景を強調するのがおすすめです。1つのデータの強調であれば前述のグラフの色や矢印を使う方法でいいのですが、複数のデータを1つのまとまりとして強調したいときは、背景に色の付いた図形を敷くことで、ひとまとまりのデータであることを強調できます。

データを強調した例

●増減の傾向は「矢印」で強調する
グラフでデータ全体の増減の傾向を強調したい場合に有効なのが矢印です。

増加トレンドであれば右肩上がりの矢印、減少トレンドであれば右肩下がりの矢印を使うことで、読み手はすぐにグラフで伝えたいことを理解できます。円などで囲んでしまうと見た目の印象が美しくなく、増減の傾向も分かりにくくなってしまいます。

●強調の意図は「文章」で表現する
グラフを色や矢印などで強調し、さらにそれが意味するところを文章で追加することで、より明確に意図を伝えることができます。グラフだけでは説明できない背景情報や理由、データの解釈などを添えましょう。

矢印による強調と、意図を文章で加えた例

細部までこだわればグラフは劇的に分かりやすくなる!

ここまでグラフを選んで見せ方を工夫し、強調する方法を紹介しました。あとはグラフの重要な要素を整えれば完成です。

通常は見落とされがちな細部まで少しの手間を加えてグラフを整えることで、劇的に分かりやすくなり、メッセージを読み取りやすい資料にすることが可能です。グラフの最終調整で気をつけたいチェックポイントは次の5つです。

(1)いつの時点のデータかを示す
グラフの情報がいつ時点のデータなのか、グラフタイトルなどで示すようにします。例えば、消費者アンケートのデータを示すとして、それが10年前のものなのか、1年前のものなのかで意味がまったく変わってしまいます。

(2)軸に単位を入れる
基本的なことですが、単位を入れ忘れてしまうとグラフ自体が成り立たなくなってしまいます。単位はテキストボックスで挿入しましょう。

(3)軸目盛を細かくしない
軸目盛を細かく見せているグラフを見かけることがありますが、読みにくくなってしまうためおすすめしません。軸目盛は5つ程度とし、グラフのデータラベルを有効活用しましょう。

(4)データを省略しない
グラフで示す値の一部を省略してデータの変化を大きく見せるケースを時々見かけます。これは避けましょう。データは全体を見せるようにし、読み手に誤解を与えないようにすることが大切です。また、軸の最小値は途中からではなく、ゼロから始めましょう(%や指数の場合は除く)。

(5)出どころを明確にする
データには出どころが存在しますので、必ず明記しましょう。それがなければデータの検証ができません。出どころはテキストボックスを使って追加します。

(1)~(5)の改善前、改善後を比べると次のように整理され、すっきりと分かりやすいグラフに変わります。

グラフ作成の5つのチェックポイントで改善した例

次回はいよいよ一人歩きする資料づくりのゴール。資料の流れをより分かりやすくし、資料全体に統一感を持たせる工夫を行っていきましょう。総仕上げとして、一人歩きする資料をより伝わりやすいものにするためのコツを紹介します。

PROFILE

松上 純一郎まつがみ・じゅんいちろう
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。外資系コンサルティングファームからNGOに転じ、現在は株式会社Rubato代表取締役を務める。自身のコンサルティング経験に基づいて行う、資料作成の講座が好評を博す。著書に『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』など。

記事公開:2023年6月