写真館で撮った家族写真物語

PHOTO STORY 02

息子と愛犬

東京都板橋区  森山 伊津子 様

あれは確か一昨年の初冬であったと思う。外交の途中で一軒の写真館を見つけた。この辺りでは高級な住宅街にポツンとたたずんでいた。洒落た白い外観で、外から二階にあがる螺旋階段にはいくつかの写真が飾られていた。来年成人式を迎える息子の事を思い出した。「そうだ、ここで撮ってやろう」そして息子の愛犬であるマリーと一緒に撮ってやりたいと思っていた。

[写真] マリーは息子が九つの時、我が家にやってきた。母1人子1人の我が家では息子の妹となった。今では息子のお姉さんというか母親のようでもあった。晴れて運転免許をとった息子の車に同乗した時、マリーは眩しそうに息子を見つめていた。あれは母の目であった。一緒に記念撮影ができるなんて息子も喜ぶだろう。さっそくその写真館に問い合わせてみた。思いのほか快く愛犬との記念撮影を承知してくれた。これで安心だ。楽しみである。
撮影当日、羽織り袴もレンタルでき、髪も整えてくれサービスが行き届いていた。もちろんマリーの気を引く為の小道具まで揃っていた。「パプパプー」カメラのこちら側で私がおもちゃを揺らす。マリーがこちらを向いてニッコリ(したと思っている)。さすがプロ、撮影はスムーズに終了した。
数日後写真を受け取りに行った。凛々しい息子の姿と可愛い愛犬の姿に大満足であった。これこそまさに人生最高の記念写真である。
この撮影の数ヵ月後、マリーは他界した。肝臓ガンだったマリーが危篤になると、息子は必死に車を走らせた。そして、家族の一員を亡くした息子は静かにポロポロ涙を流していた。そんな涙を素直に流せる息子を誇りに思う。
今この写真は私の人生の表彰状となった。