いま企業で「広報戦略」の重要度が増している理由とは?
広報戦略の策定方法とポイントも解説!
スマートフォンやSNSの普及などにより、いま企業のマーケティング活動の中で、「広報戦略」の重要性が高まっています。
従来は、企業の中で広告・宣伝関連業務と比べると、受動的で目立ちにくいと思われてきた広報業務ですが、
その戦略を立てる重要性が高まっているのはなぜでしょうか。
その理由や戦略策定のステップ、意識すべきポイントなどを紹介します。
近年の広報戦略の成功事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
広告のようにビジネスの効果につなげる!「広報戦略」の重要性が高まっている背景とは
広報とは、企業が自社の方針や施策、事業活動、製品、サービス、ブランド、社会貢献活動などについての情報を社内外に広く発信することです。
広報は広告と混同されやすい言葉です。二つの最も大きな違いは、広告は、企業が自ら選んだ外部メディアのスペースを買い取り、製品・サービスの販売促進を直接的に目指すものであること。それに対して広報は、自社メディアで情報を発信した上で、外部メディアに取り上げてもらったり取材を受けたりと、受動的に情報を拡散させ、間接的に製品・サービスの販売促進を目指すものであるというところです。
また、広報は、最終目的が販売促進などビジネスの直接的な効果だけでなく、会社やブランドの認知拡大、好感度のアップ、製品・サービスや会社のファンを増やすことなど、長期的に幅広いステークホルダーとの良好な関係の構築を目指すものとなっています。
しかし近年は、従来のマスメディアを中心とした広告の効果が得にくくなった一方、自社のウェブサイトやSNSなど企業がお客さまとより近いところで情報を発信・コミュニケーションできるウェブ系メディアの力が高まっており、こうした場を含めて広報を戦略的に行うことにより、ビジネスの効果につなげやすくなっているのです。
そこで、従来のような長期的視点による広報活動に加え、市場やお客さまにもっと直接的に働きかけ、広告よりも費用を抑えながら製品・サービスの販売促進の効果を出すための「広報戦略」が企業内でより重要になっています。
また、近年は企業のSDGs(持続可能な開発目標)への貢献が重視され、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した企業への投資が加速していることからも、長期的に幅広いステークホルダーとの良好な関係づくりを担う広報が一層大事になっています。さらにはお客さまや社会との距離が近づいているからこそ、SNSでの「炎上」がしばしば話題になるなど、企業には多方面に対して繊細かつ計画的なコミュニケーションが必要になっているのです。
このように、社会とのコミュニケーション、広報施策を場当たり的に行うのではなく、一貫した長期的な指針をつくり、その下で施策を計画的に展開するための広報戦略が重要になっているといえます。
企業で広報戦略を策定する必要性やメリット
では、企業内で広報戦略の策定の必要性やメリットがどのように高まっているかを見ていきましょう。
SNSやアプリなど自社で発信できるメディアの種類が増えている
現在は多くの人がスマートフォンなどで自ら情報を収集し、製品やサービスを能動的に選択するようになっており、特にBtoCビジネスでは消費者の嗜好も細分化しています。これにより、不特定多数に向けたマス広告の費用対効果が出にくくなっていることは、多くの皆さんが感じていることでしょう。
これに代わり、自社サイトやブログ、またはSNSや動画サイト、メールマガジンなど、企業が自ら情報を発信する場が増えています。さらには、LINEなどのアプリや自社アプリにより、登録ユーザーに直接クーポンやキャンペーンなどの情報を届けたり、お客さまからより気軽に質問やレスポンスを受けたり、お客さまの行動・意識を分析したりといったことが可能になっています。
FacebookやTwitter、Instagramなどでは、プレスリリースやウェブサイトなど従来の方法よりも、日々の好きなタイミングで、よりカジュアルに情報を発信できます。また、今はメディアも、取り上げる情報を速報性の高いSNSで集めることが増え、企業へのメディアの問い合わせや取材申し込みがSNS経由で来ることも珍しくありません。こうしたSNSの場で独自性や新しさを持った情報を発信することが重要になっているのです。
ターゲットごとに合わせた効果的な広報がよりしやすくなった
SNSや企業アプリ、メールマガジンによる広報では、配信するターゲットの属性が分かっている場合も多く、伝えたい情報ごとに発信するターゲットを絞り、ターゲット属性に合わせた効果的な内容での発信がしやすくなっています。
また、各ターゲットに向け、自社サイトやブログ、メルマガなどの自社メディアで、単なる自社のPRでなく、お客さまの生活やビジネスに役立つ記事、自社の専門性を生かした業界・技術情報などをまとめたホワイトペーパーなど、有益な情報を発信する企業が増えています。検索などでこうした情報にたどりついたお客さまを、BtoCであればECサイトでの製品購入に、BtoB事業であれば資料ダウンロード時や問い合わせによるお客さま情報の取得などにつなげ、お客さまにコンタクトして商談につなげるなど、売り上げに結びつく広報活動がしやすくなっているのです。
SNSは、自社や製品・サービスに関するリアルな声のリサーチにも役立ちます。その声を踏まえて情報を発信したり、声を上げてくれたユーザーに直接コミュニケーションしたりということも重要になっています。
広告と比べ費用を抑えやすい・小規模ではじめられる
新聞やテレビなどのマスメディアに広告を出稿する場合、数百万円から数千万円の費用がかかるといわれます。一方で、その効果測定は難しく、分析・改善にも時間がかかる場合があります。
しかし、SNSや自社メディア、メルマガなどを使った広報・PRは自社で内製できる要素が多く、幅広い企業にとってはじめやすいものといえます。
小規模の広報施策でテストを繰り返しながら、その結果を蓄積・分析することで、お客さまをはじめとするステークホルダーに伝わりやすい表現や、逆に炎上しやすい表現、情報発信の上でのリスクなどを理解しやすい面があります。こうして得たノウハウや改善策を、広告・宣伝を行う際にも生かすことで、それらの効果をより高めることもできるのです。
広報戦略をきちんと立て、効果を出していくことで、その分広告・宣伝にかける費用をかけすぎるのを防ぐことにもつながります。
広告と比べネガティブに受け取られにくい
広告や宣伝は、受け手にとって、情報が一方的に届けられていると感じたり、自分に対し直接的に購入を促すものと捉えられたりと、一般にネガティブな印象を持たれ、心理的にブロックされやすいといわれます。デジタルの追跡広告に慣れた近年の消費者は、宣伝色の強い広告への警戒心が強く、読み飛ばす傾向も高まっているといわれています。
一方、企業が自社メディアで発信したり、広告のようにお金を支払うことなく外部メディアが自主的に取り上げたりした広報情報の場合、受け手が検索など自ら情報収集している際や、自ら選んだ信頼するメディアを見ているときに受け取ることが多く、より客観性を持って取り上げられた信頼性の高い情報であると捉えられやすいというメリットがあります。
メディア紹介時の情報を長く利用できる
掲載期間の決まっている広告と比べ、広報活動によって外部メディアに情報を取り上げられた場合には、そのメディアのウェブ版や別のウェブメディアで取り上げられることがあります。そうしたウェブ上のメディア情報はその後も残ることも多く、自社サイトなどにリンク先URLを掲載して、長く利用することができます。
また、こうしたリンクURLをSNSでシェアすることで、多くの人に拡散されることもあります。
広報戦略策定の5つのステップ
次に、広報戦略を策定するための5つのステップをご紹介します。
現状・問題を分析する
広報戦略を策定にあたり、まず自社や競合・市場の現状と、そこから導き出される問題を分析します。
広報活動の目的・背景
自社の経営戦略のうち、広報で貢献したい・貢献できる部分はどこか、広報で解決したい自社の課題は何か。(「●●部門の売り上げが●●円足りない」など具体的に)
発信内容
発信したい製品・サービスは何か。その魅力や市場での課題はどんなものか
競合・市場
競合他社はどこか。製品・サービスの自社との違いはどこか。シェア率は。競合の発信状況や頻度、メディア掲載数などは。
広報の目標と戦略を策定する
上記のような自社の現状・問題を分析したら、続いて広報戦略を考えるステップに入ります。
まずは理想的な広報施策を行った後の世界、理想的な自社と社会の姿をできるだけ具体的に想像しましょう。
その次に、理想的な姿に向かうための戦略を考えます。5年後、10年後などの最終ゴールを決めたら、その前の期間を細かく区切って、それぞれの目標を立てます。
さらに、各目標地点までの戦略を立てます。考える項目の例を下記に挙げてみます。
その期間での広報の目的、注力テーマは。
特に伝えたいターゲットは。(属性も具体的に)
伝えるメッセージは。
必要な予算や人材、時間などのリソースは。
など。
戦略に基づき、具体的な広報施策を計画、実施する
戦略が決まったら、具体的な広報施策に落とし込んでいきます。広報施策には、下のようなものが挙げられます。
コーポレート広報
プレスリリースの配信や記者会見や記者懇親会、公式サイトやブログといった自社メディアでの情報発信、会社案内・広報誌・IR誌・統合報告書・ブランドブック等の発行、SNSや自社アプリでの情報発信、自社ショールーム、会社見学会や地域住民との交流イベントなど
製品・サービス広報
製品・サービスについての発表会やメディアキャラバン、展示会出展、製品・サービス専用のサイト・SNS・アプリ・パンフレットでの情報発信、ファンイベントの開催など
社内広報
社内報やイントラネット、社内SNS、社内ポスター、経営方針説明会や表彰式などのイベント、社内調査やアンケート、経営者の書籍など
広報活動の結果を分析する
効果検証の際には、例えば、メディアへの掲載ボリューム、問い合わせ数、自社サイトへのアクセス数や自社製品名の検索数、SNSの反響数(リーチ、インプレッション、エンゲージメント)など、具体的な数値で効果を検証します。
同時に、質的にどんな効果があったのかも見ていくことが大事です。
具体的には、掲載されたメディアや自社に関するSNSでの投稿で、ポジティブな内容の比率がどれだけあったか、SNSのシェアがどのくらいあったのか、自社が目指すようなコメントが得られたか、自社が重視するメディアやインフルエンサーの反応がどうだったのか、といったことが、質的効果として挙げられます。
分析結果をもとに改善する
上記の分析に基づき、改善策を考えるステップです。目標が達成できなかった場合、何が足りなかったのか、どの施策に課題があったのかなどを把握し、改善策を見つけていきます。
目標を達成できた場合には、新たな目標設定を行い、そのために必要な戦略を改めて策定します。
策定した広報戦略が一度で成功することはないと考え、トライアンドエラーを繰り返しながら、PDCAサイクルを回して継続的な改善を行うことが大切です。
広報戦略を策定する際の3つのポイント
属人化しない仕組みを考える
広報戦略を策定するのは、一貫した方針の下での社会とのコミュニケーションが重要になっているためであり、広報施策は企業全体で一貫性、継続性をもって実行する必要があります。そのため、広報戦略を組織の中に広く浸透させることはもちろん、施策の実行が特定の人間の能力やノウハウに依存することを防ぐことも大切です。幅広いメンバーの中で広報施策の進捗状況やリスク情報を共有する、チームで業務を進める、定期的に担当者をローテーションするといった「属人化」を防ぐ仕組みづくりを考えましょう。
また、広告・宣伝部門の担当者とも連携して広報戦略を作ったり、互いの持つ情報を共有し合うことで、より統一感を持った、適切なタイミングでの情報発信につながり、より強いブランディングが実現できます。
PRだけでなく、ステークホルダーへの有益な情報発信を心掛ける
先述したように、近年のお客さまは、宣伝色の強い情報を避け、自ら客観的に選択するための材料となる情報を求める傾向が強くなっています。また、社会全体がコンプライアンスを重視するなど、より信頼性や社会貢献度の高い企業から情報を受け取りたいという意識があります。企業から受け取る情報も、世の中に広く役立つ情報が求められており、単に自己PRをするのではなく、製品や業界にまつわる珍しい情報、専門性の高い情報、お客さまに喜ばれる役立つ情報を世の中にシェアする意識が重要です。
お客さまがそうした情報を受け取る中で、自社への信頼感や好感度を高めていくことで、お客さまの中で製品・サービスへのニーズが高まったタイミングで、数ある企業から選ばれることにつながるのです。
リスクを具体的に想像する
どのような企業でも、今は多方面のステークホルダーとの関わりを避けることはできません。消費者や顧客、株主・投資家、従業員とその家族、取引先、地域住民、行政機関、金融機関など、ステークホルダーとの良好な関係づくりの中では、さまざまなリスクを想定し、その対策を考えておくことが重要です。
これらのステークホルダーとの関係の中で、広報活動において考えられるリスクを社内で話し合っていきましょう。より考察を深めるために、総務や人事、広告・宣伝部門、営業、コールセンターなど、幅広い部門と一緒に話し合うことも大切です。さらには、各広報施策やメディア別の特有なリスクについても考えておきましょう。
近年の広報戦略の成功事例
近年は、世界的なコーヒーチェーンが広告を一切打たず、SNSを中心とした広報戦略を行ってきたことで有名ですが、先述したように、費用を抑えてビジネスの効果を上げるための広報戦略は中小企業こそ取り組むメリットがあるといえます。
そんな中小企業の事例を含む、近年効果を挙げた広報戦略の一例をご紹介します。
専門的な製品ながら、動画投稿でファンを集める中小BtoBものづくり企業
3Dプリンターやレーザー加工機といった産業機器を開発・販売しているある中小企業では、専門的な自社機器の使い方を初心者ユーザーにも分かりやすく伝える動画を、YouTubeで発信。中には視聴回数が5万回以上の動画も生まれています。現場ユーザーの日々の作業に役立つ情報を提供することで、認知度を高めた例といえます。
また、従業員数約20人のある産業機器メーカーでは、直接のお客さまに限らない幅広い層の認知度アップを狙い、Twitterで毎日投稿。自社のレーザー加工機で金属に動物の柄を描く動画など、印象的な動画をアップしてシェアすることで、専門的な機器を扱う会社でありながら、2000人以上のフォロワーを獲得しています。
自社ファンが無報酬の「アンバサダー」としてSNSで発信
作業服専門店を全国に900店以上展開しているある企業では、2019年から、SNSやブログ、YouTubeなどで自社製品について自主的に発信してくれているファンに、「アンバサダー」として協力してもらう施策を展開しています。製品のモニターの依頼、新製品発表会への招待を行っていますが、アンバサダーはすべて無報酬の自主発信。発信情報が客観的であることからユーザーからの信頼を集め、製品の購買につながっています。アンバサダーは社員では気づかない製品の魅力に触れてくれる点などもメリットになっているそうです。
伝統的な飴職人の技術を見せる動画投稿が国内外に拡散
愛知県で日本の伝統技法による飴の製造・販売を行っているある中小メーカーでは、飴職人による製造工程の動画を社員たちが自ら撮影し、自社ブログやInstagramなどで発信しています。カラフルな飴の美しさや、なかなか見ることのできない伝統技術を持った職人の仕事を、動画で丹念に見せる投稿を続けていたところ、ある飴の製造動画が国内外に拡散し、300万回を超える再生を記録。海外の有名人からの注文が来るなど大きな話題となり、その後は広告を使うことなくテレビ番組や記事への紹介につなげています。Instagramフォロワーは8000人に上ります。
まとめ
広報はこのように企業の中で重要度を大きく増しています。自社の強みを誠実かつ客観的に伝えつつ、お客さまに役立つ情報、社会の喜ばれる情報を提供しながら、長期的に社会とよい関係を作っていく広報戦略に取り組んでいきましょう。
広報戦略の重要度が高まるにつれ、広報担当者が行うべき業務、考えるべき事柄も増え続けています。広報戦略のための情報収集・分析、計画立案といった重要業務の時間を作り出すために、日々の事務作業を効率化することも重要になります。
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