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業界注目の技術情報

フロープロセスの歴史と工業化動向(その2)

フロープロセスの歴史

前回、有機合成反応の主流は長らくバッチ法によって占められてきたと書いたが、工業規模での気相反応では、古くからフロープロセスが多く用いられている。たとえば一世紀以上の歴史を持つハーバー=ボッシュ法のプラントも、水素と窒素の混合気体をパイプラインに流し、高温高圧下で触媒に触れさせてアンモニアを製造するものだ。その他、ナフサの熱分解によってエチレンを製造するプラントなど、多くの重要な化学プロセスがこの方法によっている。

しかし、液体を細い流路に流しながら反応させる手法、いわゆるマイクロリアクタによる有機合成の登場は遅れた。すでに分析化学などの分野では、マイクロデバイスの利用が広く行われていたが、これを合成反応に用いる発想は化学者にとってなじみづらいものだった。

マイクロリアクタの誕生

1990年代後半に入り、ようやくマイクロリアクタの研究が始まる。口火を切ったのは、マインツマイクロ工学研究所やカールスルーエ中央研究所など、ドイツの研究機関であった。1997年には微小反応技術に関する初めての国際会合がドイツで開催され、1998年には日本でも初めての講演会が開かれている。

この時期からマイクロリアクタが注目を受け始めたのは、微細加工技術の進展により、高精度の反応容器が十分低コストで製造可能になったことが背景にある。2002年には日本で特殊法人新エネルギー総合開発機構(NEDO)プロジェクトも開始され、本格的な研究体制が整い始めた。マイクロリアクタに関する論文数は、2002年には年間200報に及ばなかったが、その10年後には1000報を突破している。

ハードウェア面での改良

フロー合成においてしばしば問題となるのは、混合に要する時間である。マイクロリアクタでは溶液の通る流路が細いため、フラスコなどを用いる場合より混合ははるかに速い。しかしそれでも、層流が発生して混合不十分となるケースが起こる。

そこで、マイクロミキサーという仕組みが考案された。2種の液それぞれをいくつかの流れに分けた上で両者を接触させ、効率よく混合を行なう方法、混合の際に流路を細く絞ることで、強制的に両者を混合する方法、流路を三次元的ならせん状にする方法など、いくつかの形式が考えられている。

またフラスコで行なう有機合成では、途中で反応の進行状況を見るため、TLCなどによるチェックが可能だが、フロー合成においてはこうしたモニタリングが難しい。しかし、反応管の各所にセンサなどを取り付け、濃度を測る試みがなされている。たとえば赤外分光器によって、試薬あるいは反応生成物の濃度を測定することで、反応の進行をチェックする方法が考えられた。

固体の発生による流路の目詰まりはマイクロリアクタの大きな問題とされてきた。しかし、流路に超音波発生装置を取り付けて、定期的に超音波照射を行なうことで、かなりの目詰まりを解消できる。マイクロリアクタが広く使われるようになってきたのは、こうした改良の積み重ねによるところが大きい。

適用可能な反応の開発

こうした改良が進んだため、マイクロリアクタで実行可能な反応は大幅に増えている。大きく分類すれば、(1)無触媒(2)均一系触媒(3)不均一系触媒(4)固定化反応剤に分けられる。

(1)無触媒 (2)均一系触媒
アミド合成、Friedel-Crafts反応やWittig反応などの基本的な合成反応はもちろん、有機リチウム化合物やGrignard試薬、有機亜鉛化合物といった有機金属類や、DIBAL-Hなどの還元剤も利用可能だ。クロスカップリング反応をはじめとする均一系触媒反応も、同様に実行できる。
細い管内で反応を行なうマイクロリアクタには、一見不向きと見える反応も実現している。ガラス製の反応容器を使えば光反応なども行えるし、重合による高分子合成、粘性の高いイオン液体の合成などにもマイクロリアクタが適用され、優れた成果を挙げている。

(3)不均一系触媒
不均一系触媒を用いる場合には、不溶性の粉末を流すわけにはいかないので、工夫が必要になる。膜状高分子などに担持させた触媒を反応管内部に設置しておき、基質の溶液をここに流して接触させながら反応を行なうといった方法だ。

[図]フロー合成における不均一系触媒の設置方法の概念図

触媒の設置の仕方として、上図に示すようないくつかの方法が工夫されている。触媒を担持させたビーズ状高分子を詰めた「触媒充填型」(左上)、反応管の内壁に触媒を担持させた「反応管壁担持型」(右上)、触媒を担持させた多孔質架橋高分子が詰まった「モノリス型」(左下)、中央に触媒膜を張った「触媒膜導入型」などがある。
溶液との接触効率などの観点から、多くは触媒充填型が用いられてきたが、空隙が不均一であるため、圧力が高まりやすい、流速が均一になりにくいなどの欠点がある。これを改善するため、モノリス型が考案された。管内でスチレンなど単量体と、ジビニルベンゼンなど架橋剤を混合して沈殿重合させ、そこに触媒を担持させたものだ。これら不均一系触媒により、たとえば溝呂木-Heck反応、クロスカップリング反応、接触水素化反応などが実現している。

(4)の固定化反応剤と、それを応用した複雑な化合物のフロー合成については、次回に紹介したい。


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本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しております。

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