ファイルの暗号化とは?暗号化Zipなどの問題点と
代わりとなるファイル送信手段を解説

ファイルの暗号化とは?暗号化Zipなどの問題点と代わりとなるファイル送信手段を解説

メールでファイルを送信する際の情報漏えい防止対策とされてきたファイルの暗号化。
中でも、「Zipファイルにパスワードを付けて暗号化する方法」は、無料ソフトでも簡単に行えるため、特に多くの企業が採用してきました。
しかし近年、この「暗号化Zip」のメール送信は、セキュリティ上の問題点が強く指摘されるようになっています。

では、そもそもファイルの暗号化とはどんなもので、なぜ安全と思われていた送信方法が問題視されているのでしょうか。
この記事では、ファイル暗号化の基本的な内容とともに、暗号化Zipファイルをメールで送信する際の問題点や、これに代わるより安全性の高いファイル送信手段をご紹介します。

ファイルの暗号化とは

ファイルの暗号化とは、ファイルのデータをあるルール(アルゴリズム)に従って不規則で無意味な文字列などに変換する処理のことをいい、第三者からは元の内容が容易に分からないようにするためのものです。

なお、暗号化して意味が分からなくなった情報を元に戻すことを「復号」「復号化」といいます。ファイルの暗号化は、万が一ファイルが望まない相手に渡った際でも、ファイルの中身が容易には読み取れないようにすることで情報を守るというセキュリティ対策です。これは、メール誤送信やクラウド上での誤った相手へのファイル共有といったヒューマンエラー、サイバー攻撃などの不正アクセスにより、ファイルが流出した際に、情報の悪用や改ざんのリスクを抑えることにつながります。

ファイル暗号化の仕組み

ファイル暗号化では、暗号化アルゴリズムが使われますが、それが第三者も知り得るアルゴリズムの場合、望まない相手にファイルが復号化される可能性があります。そこでさらに、暗号化と復号化には「鍵」と呼ばれるデータ(パスワードなど)を用いることが一般的です。復号鍵による認証を経なければファイルを元に戻せないようにするのです。

復号鍵にアクセスできる正当なファイル受信者だけが、データを元に戻すことができ、閲覧や編集ができます。

しかし万一、望まない第三者に復号鍵が流出すれば、データが容易に閲覧されることになるので、鍵の管理は厳重に行う必要があります。復号鍵にパスワードを用いる場合は、ネットワークからのパスワード流出のリスクが存在します。また、パスワードの使い回しや簡単な文字列の使用はパスワードが推測される恐れにつながります。大文字・小文字、数字、記号を組み合わせるなど、複雑で推測しにくい、強度の高いパスワードを使うことが大切で、10文字以上が好ましいとされています。

復号鍵には、指紋や静脈などの生体情報やICカードなどを使う場合もあり、より安全性が高い手段であるといえます。

ファイル暗号化のデメリットや注意点

ファイル暗号化はセキュリティ対策としての効果がある一方で、デメリットや注意点が存在します。
主なものを3つ紹介します。

一つ目は、送信側にはファイル暗号化という手間がかかり、受信側は閲覧や編集に復号鍵が必要になることです。このように送信側・受信側双方にとって非効率である点がデメリットといえるでしょう。

二つ目は、ファイル暗号化だけではセキュリティ対策として完全ではないことです。先述したように、鍵となるパスワードの流出の恐れが存在するほか、データ自体が流出するのを防ぐ効果はないということも踏まえ、メール誤送信などの防止対策やサイバー攻撃への対策も合わせて行うのが好ましいでしょう。

三つ目は、経年劣化やトラブルなどによりハードウエアが壊れた際、そこに保存された暗号化ファイルデータの復旧が難しくなることがある点です。データ復旧の際にファイルの復号を行う必要があり、データが使えるようになるまでに時間がかかってしまい、被害が大きくなる可能性があるので、注意が必要です。

ファイル暗号化の方法

ファイル暗号化にはさまざまな方法がありますが、その中で代表的な3つの方法をご紹介します。

Windows EFS・IRM機能の利用

Windowsのパソコンを使っている方は、標準で搭載されたEFS・IRM機能を使ってファイルの暗号化ができます。

EFSは「Encrypting File System」の略で、「暗号化ファイルシステム」のことです。ファイルだけでなくフォルダやドライブ内のファイルをまとめて暗号化できます。また、暗号化を行った本人はファイルの暗号化後も復号のための認証などは不要で、通常のファイルのように閲覧・編集ができるのがメリットです。また、ファイルを閲覧できるのは暗号化を行った本人と管理者のみのため、パソコンの紛失・盗難時に情報が悪用されるリスクが低減できます。

しかし、この方法で暗号化したファイルは、メールへの添付で暗号化が解除されるため、メール送信でのセキュリティ対策には使えません。

IRMは、「Information Rights Management」の略で、Microsoft社のOffice製品を暗号化する機能です。暗号化したファイルへのアクセスレベルをユーザーごとに設定できるため、誤った書き換えなどのミス防止対策としても有効です。

※この機能はWindowsのビジネス用エディションのみの機能となっています。

ファイル暗号化ソフトの利用

ファイル暗号化の専用ソフトには多くの種類が存在し、備える機能もさまざまです。

ファイル暗号化ソフトには、例えばパスワード認証に加えて別方式の認証を必要とする二段階認証や、端末固有の識別情報を用いた端末認証の機能を備えたものがあります。鍵がパスワードの場合、先述のようなリスクが想定されるため、それ以外の認証で安全性を高めているのです。

そのほか、よくある機能としては次のものが挙げられます。

ファイル管理機能…ユーザーごとにファイルの復号化や閲覧・編集・複製・印刷・削除などの権限の管理、暗号化ファイルの削除時の自動バックアップ、削除した暗号化ファイルを復元する機能。

ログ管理機能…暗号化や復号化、閲覧・編集・複製・外部への持ち出しといった操作ログを記録、管理する機能。

自動暗号化機能…指定されたフォルダにアップするだけでファイルを自動で暗号化する機能。

ファイル暗号化ソフトには、中には無料のものも存在します。しかし、上記で紹介した安全性担保のための機能が少なかったり、サポート体制がなかったりする場合もある上、ウイルスを感染させる目的で配布されているケースも報告されているため、注意が必要です。

Zipファイルへのパスワード付与

Zip形式で圧縮したファイルにパスワードを付与して暗号化する方法です。

ただし、誤解されやすいようですが、Zipをはじめとするファイル圧縮は暗号化とは異なります。ファイルの圧縮は、アルゴリズムに従いファイルサイズを小さくするものであり、広く普及しているソフトで誰でも元のファイルに解凍し、閲覧できます。

Zip形式の圧縮だけでは暗号化はされず、解凍用のパスワードを設定することでファイルを暗号化しているのです。

Zipファイルの暗号化は、Zip方式がファイル圧縮方法として広く普及していることや、無料のソフトウエアで誰でも暗号化できるのがメリットであり、多くの企業に使われてきました。

一方で、この方法のデメリットは、Zipファイルに含まれるファイル名やディレクトリ名、ファイル作成者などまでは暗号化されず、パスワードを知らなくてもこれらの情報が誰にでも見えてしまうことです。また、何度パスワードを入力してもファイルがロックされることがないため、パスワードを総当たりで入力すれば復号される恐れがあり、セキュリティ強度が低いといわれています。

さらに、暗号化Zipファイルをメールに添付して送る方法がセキュリティ対策として広く利用されてきましたが、それがセキュリティ上のリスクを高めることが明らかになり、大きな問題だと考えられるようになりました。次の項目で詳しく説明します。

いま問題視される「PPAP(暗号化Zipファイルのメール送信)」

近年廃止の動きが広まっている、いわゆる「PPAP(暗号化Zipファイル)のメール送信」について説明します。

この方法は、パスワード付与で暗号化したZipファイルをメールで送り、そのパスワードを別メールで送るというもので、各要素の頭文字をとってPPAPと呼ばれています。(イラスト参照)

いま、このファイル送信方法のセキュリティ対策は、期待されていた効果が得られないだけでなく、かえってリスクを高めると考えられています。そのため内閣府と内閣官房は、2020年11月に暗号化Zipファイルのメール送信を廃止すると宣言。これを受けて多くの企業でも、さまざまなリスクが認識されるようになったのです。それではなぜこの方法が問題なのでしょうか。

「PPAP(暗号化Zipファイルのメール送信)」を廃止すべき理由とは

暗号化Zipファイルとパスワードを別々のメールで送る「PPAP」が問題とされるのには、主に3つの理由が挙げられます。

セキュリティ効果の実効性がない

PPAPが広まった当初は、メール誤送信対策として効果があると思われていました。万一、メールで暗号化Zipファイルを誤送信しても、相手はファイルの中身を見ることができません。すぐに誤送信に気づけば、2通目でパスワードを送らずに済み、情報漏えいを防げると考えられていたのです。しかし実際には、誤送信したことに気づかないままパスワードも送ってしまうケースも多く、期待されていたほどの情報漏えい防止の効果はなかったといわれています。

また、以前はこの方法で、暗号化Zipファイルがネットワーク上で盗み見られる(盗聴される)のを防げるとも考えられていました。この考え方は、総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に、機密性の高い情報を送る際には必要に応じて暗号化をしなければならないと記載されていたことが、個人情報保護法が施行された当時(2005年)に主に注目され、広まりました。しかし、このガイドラインでは、パスワードはメール以外での方法で伝達することが望ましいという旨が書かれていました。にもかかわらず、正しく認識されず、「別のメールでパスワードを送ればよい」という誤解が広まったとみられています。

しかし、PPAPでは暗号化Zipファイルとパスワードが同じメール経路で送信されているので、1通目が盗聴されていれば2通目も盗聴される可能性が高く、セキュリティ効果が薄いということが、現在では正しく認識されるようになりました。
※2001年に策定された。2024年度9月時点の最新版は2022年3月のもの。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000805453.pdf

「Emotet」などのマルウエア感染のリスクを高める

また、PPAPの暗号化Zipファイルに限らず、メールに添付された暗号化ファイルは、セキュリティソフトのチェックをすり抜けることから、マルウエアが潜んでいても検知できず、セキュリティリスクをかえって高めることが問題視されています。

そして、広く普及したPPAPの慣習を悪用し、2014年以降に世界中で流行したのがマルウエア「Emotet」です。Emotetは、不正なファイルをパスワード付きZipファイルで送付してユーザーに開かせ、感染を狙います。感染したシステムから機密情報や個人情報、金融情報などを盗んだり、さらにランサムウエアに感染させたりすることで、被害を拡大させていきます。取引先や顧客にかかわる情報漏えいなどステークホルダーへの影響も大きく、企業の評判の低下につながることもあります。

受信を拒否されるケースが増えている

近年のEmotetの被害拡大などにより、IT系企業だけでなく一般企業にも暗号化ファイルの受信を拒否する動きが広がりました。暗号化ファイルを添付したメールを受信させない、またはメールに添付した暗号化ファイルはサーバーで自動的に削除するなどの対策が取られています。暗号化Zipファイルをはじめとする暗号化ファイルのメール送信は、ビジネスでは使いづらくなっているのが現状です。

「暗号化ファイルのメール送信」に代わるファイル送付手段とは?

ファイル暗号化はセキュリティ対策の一つである一方で、万能なものではなく、業務効率の面でデメリットもあります。特に、先述したように「暗号化Zip」をはじめとする暗号化ファイルのメール送信はセキュリティリスクが高いため、多くの企業が代替手段への切り替えを進めています。
それではどのような代替手段があるのか紹介します。

ビジネスチャット

近年導入する企業が増えているビジネスチャットツールを活用する方法です。チャットツールは、アクセスできるメンバーがあらかじめ決まっているため、メールよりも誤送信のリスクが低いことや、手軽な操作で使えることがメリットです。一方で、暗号化機能がないサービスもあるほか、メンバーの中でも想定外の相手への誤送信による情報漏えいのリスクは存在します。リスク対策として運用でカバーできるか、セキュリティレベルの高さはどうかといった点を確認して利用しましょう。

クラウドストレージ

クラウドストレージは、ファイル送信側と受信側が一つのクラウド環境を使い、ファイルを保管・共有することができます。共有時は保存先のURLを相手に送るだけなので簡単です。フォルダやファイルにアクセスできるメンバーを設定でき、権限のない人はアクセスできないように設定できるサービスが多く、セキュリティ対策として有効です。付属する機能はサービスにより異なりますが、無料のサービスはセキュリティ機能が不十分な場合があるので注意が必要です。

まとめ:「暗号化ファイルのメール添付」からクラウドサービスへ

近年、PPAPをはじめとする暗号化ファイルのメール送信のセキュリティリスクが問題視されてくる中で、クラウドストレージやファイル転送サービスといったクラウドを活用したファイルのやり取りが主流となりつつあります。テレワークを実施する企業が増えた現在、機密情報のセキュリティ対策の厳格化は企業としての最優先課題であると言えるでしょう。

DXによる業務の効率化も重要視されています。セキュリティリスクを抑えつつ効率的にファイルの共有ができるクラウドサービスを選ぶ企業が増えています。

富士フイルムの「SECURE DELIVER(セキュアデリバー)」は、法人向けのクラウド型ファイル送受信サービスです。ファイルの暗号化はもちろん、通信の暗号化や外部からのアクセスを遮断するファイヤーウォールで重要なファイルを守ります。また、誤送信を防止する送信時の第三者による送信承認機能や、一定期間でのファイル削除機能、操作ログ取得など堅牢なセキュリティ機能を搭載しています。ユーザーの操作画面はどなたにも分かりやすく、簡単に・安全にファイルを送受信できます。高セキュリティで使いやすいファイル送受信サービスをご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。