- 「私の子よ」
- 佐野 利枝
審査員 : 中村 征夫
今回の審査では水中写真がとても多く見られ、素晴らしい作品がたくさんありました。その中でもとくに目を引いた作品です。ミジンベニハゼが卵を抱えている写真はこれまでにも数回見たことがありますが、これだけアップのものを見るのは初めてです。孵化直前の個体も目が完全に形成されていて、今日明日にも生まれようかというタイミングです。このミジンベニハゼは自分の子どもの上に覆い被さるような感じで、「早く出ておいで」という声が聞こえてくるようです。赤ちゃんたちは目がぱっちりとして、尻尾をくるりと丸め、今にも飛び出しそうで愛らしい姿、早く親のそばに行きたいというような雰囲気じゃないでしょうか。もしかしたら初産? と思えるほど、自分の子どもを今か今かと待ち受けている、そしてちょっと不安げな表情、まるで人間と変わらないですよね。赤ちゃんたちは手前のほうにピントがあっているので、シャープに見えます。それでいて親の両目にもきちんとピントがあっていることに驚きました。色彩的にも美しい作品です。子どもと親の絆を感じさせる、そういう素晴らしい作品だと思います。
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